約 2,287,734 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1845.html
教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」 …どいつもこいつもニヤケ面。 教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。 ──そんな学校生活も、もう終わり。 唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな? 教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。 どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。 あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。 …キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…? だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。 ……少しだけ楽しかった。ありがとうね。 あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。 そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。 ガラッ! キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」 ──えっ? ……キョン? 古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」 ──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。 ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。 長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」 突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。 ──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。 キョン「いくぞ、こっちだ!」 その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。 あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。 キョン「───おーい、ハルヒぃー。」 ん……ん? 気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。 ──夢?だったの? キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」 普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。 ハルヒ「あ……あっ、そう! あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」 ──嬉しかった。夢でよかった。 そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。 ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。 キョンも……。」 あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。 だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。 ──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。 古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」 長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」 キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」 長門「………」 ───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。 だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。 ……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。 お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。 Fin これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう 古泉「次週もマッガーレ!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2646.html
屋上に出てきてからどれくらい経っただろう。 もうすでにかなり経った気がしないでもないが、こういうときは想像以上に時間が長く感じてしまうものだ。 それにしても一体何が起こっているんだ? 俺がもう一人いる!?どういうことだ?どこからか現れたのか? 一番ありえるのは未来から来たということだろう。となると朝比奈さんがらみか? 大きい朝比奈さんか? とにかく少しばかりややこしい事態になっているようだな。 と、そこで屋上のドアが開かれた。 「古泉、……と俺か」 『涼宮ハルヒの交流』 ―第二章― 古泉ともう一人の『俺』が屋上に出てくる。 「おや、あまり驚いていないようですね」 「さっき声が聞こえたからな。そうだろうと思っていた。もちろん最初は慌てたが」 俺は『俺』の方を向き、古泉に尋ねる。 「で、そっちの『俺』は未来から来たのか?」 「な、それはお前の方じゃないのか?」 俺の質問に『俺』が声を荒げる。 「やはりそうですか……」 古泉が呟くように口を開いた。 「古泉、どういうことだ?」 「僕も初めはそう思いました。あなたが二人いるということは、どちらかが未来から来たのだろう。 だとすると、どちらかはあなたがこの時間に二人いるということを当然知っているはず、と。 しかし、あなたとは部室に向かう際に、こちらのあなたとは今ここに来る際に少し話をしましたが、 どちらのあなたにもそのような様子は見られませんでしたから、そういうこともあるかとは思いました。 いちおう確認しますが、あなたも違うのですよね?」 もちろん俺も未来から来た、なんてことはない。 「つまり俺もそっちの『俺』も未来から来たというわけではない、ということか」 「おそらくは。ちなみに今日がいつかはご存知ですか?」 「今日?ご存知も何もG.W明けの憂鬱な月曜日だろ。……まさか、違うのか!?」 「いえ、そのとおりです。ということは未来から無理矢理に連れてこられたということもないようですね」 静観していた『俺』が口を挟む。 「そっちの俺が嘘を吐いている、ということはなさそうか?」 「おそらくそれはないかと。あなたも嘘は苦手でしょう?僕なら簡単に見破れます」 「……なんか複雑だな」 『俺』は苦笑いを浮かべている。 「じゃあどういうことなんだろうな。古泉はどう思うんだ?」 古泉はお手上げといったポーズをとる。 「正直言ってさっぱりです。ひょっとすると涼宮さんの力が関係しているのかも、という程度です」 「どういうことだ?ハルヒの力が働けばわかるんじゃないのか?」 「厳密に言いますと、涼宮さんの力は無視できるレベルにおいては常に働いている、とも言えます。 そうですね、例えて言うなら我々がまばたきをするようなものです。 まばたきの際には無意識に一瞬目をつぶりますが、普通はそれによって何かが起こることはありません。 そのレベルで涼宮さんは無意識的にいつも力を使っていると言える、ということです」 「それはまずいことなのか?」 「いえ、それによって何かに影響が出たことは、我々の知る限り今までは一度もありません」 「なら問題ないんじゃないか?」 「あくまでも『我々が知る限り』『今まで』ということです」 「なるほどな。知らない範囲で起きている可能性は完全に否定はできないということか」 「そういうことです。僕としてはまずありえないと思うのですが……、他には思い付きません」 そういって残念そうに笑う。 「ちなみにそれだとお前はどう思うんだ?」 『俺』が古泉に尋ねる。 「何らかの理由によって、あなたが二人いて欲しい、と涼宮さんが思ったのではないでしょうか」 「さっき俺が役立たずと思いっきり罵られていたからか?」 『俺』はひきつったような笑みを浮かべている。 「二人で一人前ということですか。それはまた面白いですね」 いや、面白くないし、全く笑えん。が、 「ということは俺が一人前になれば全て解決ということだな」 そのとき後ろから突然もう一人声が加わる。 「そうではない」 「「な、長門!?」」 俺と『俺』は声を合わせて振り返る。 「ああ、長門さんには後で屋上に来てもらえるよう頼んでおきました。どうにも僕の手に余りそうだったので。 ところで、違うとはどういうことでしょう?仮定が間違いということでしょうか?」 「そういう意味ではない」 「と、言いますと?」 「それで解決とは言えない」 「どういうことでしょう?……長門さんの考えを聞かせてもらえますか?」 と、手で長門の発言を促す。 「最初に言っておく。これは情報統合思念体によって起こされた現象ではない。情報統合思念体は無関係。 そして、ここにいる二人は異時間同位体ではない。つまり別の人間」 「つまり宇宙人も未来人も関係していないということですか……。なるほど」 「以上のことからこれは涼宮ハルヒによって引き起こされたものと推測できる。ただし断定はできない。 その理由は我々にも涼宮ハルヒの力の発現が確認できなかったから」 つまり消去方でハルヒの力というわけか。 「そう」 古泉は言いづらそうに長門に尋ねる。 「ところで……言い方が非常に難しいのですが。長門さんにはどちらが本来の彼かわかりますか? いえ、本来のというよりも……我々の知る彼、と言うべきでしょうか?」 「それはどっちが本物か、って意味か?」 『俺』がすぐに古泉に確認する。 「……すいません。乱暴な言い方をするとそうなります」 古泉が本当に申し訳なさそうな顔を浮かべたので、俺は慌ててフォローする。 「いや、謝ることはない。俺たちも気になるし。な?」 「ああ」 と、『俺』も頷く。 とは言ってみたものの正直言って気が気じゃない。 まさか、俺が偽者なんてことはないよな。長門が間違えることはないだろうし。頼むぜ、長門。 俺たち二人に交互に視線を合わせた後、 「どちらが本物かという意味においては判断ができない」 「どういうことでしょう?」 「我々が今まで共に過ごしてきた方を本物とする根拠がない」 「なるほど。我々がよく知るからといって、そちらの彼がが本物とは限らない、ということですか」 「そう」 「では、今まで一緒にいた彼がどちらかというのはわかるのでしょうか?」 「わかる。……今まで一年間我々と共に過ごしてきたのはあなた」 長門はそう言い『俺』の方に向き直る。 「――っ、えっ!?」 俺……じゃないのか? じゃあ、俺は? ……偽者? 偽者なのか? ハルヒの力で生まれた、偽者? 「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!なんでだよ!」 もう何が何だかわからない。 そんな馬鹿な。 俺は昨日までもSOS団の一人として、みんなと過ごしてきたはずだ。 そして今日もさっきまで教室で授業を受けていた。クラスメイトとも会った。ハルヒとも話をした。 「落ち着いてください!別にあなたが偽者と言っているわけじゃありません」 「言ってるだろ!じゃあ俺はなんなんだよ。この記憶は嘘だっていうのかよ!どうなってんだよ!」 頭に血が上り、思わず古泉に詰め寄る。 「そ、それは……」 そのとき後ろから俺の手がギュッと握られる。 「落ち着いて。……お願い」 「な、……長門」 ハッと我に返る。 長門はじっと俺の目を見つめてくる。悲しいが、優しい目だ。 ……こんな長門の目を見たのは初めてだな。 初めて……か。 「す、すまん。古泉」 「いいえ。僕が変なことを聞いたせいです。本当にすいません」 古泉は本当に申し訳なさそうな様子だ。 別に古泉が悪いわけじゃないんだけどな。 「……いや、俺も知りたいと言ったわけだし。それに、大事なことだろ」 二人して黙り込んでしまったところに『俺』が申し訳なさそうに話を続ける。 「……長門、結局どうなっていてどうすればいいかわかるか?」 無神経なやつだな。と、少し思ったが、このままの空気は正直きつかったので実際には助かった。 まぁ、俺だしな。多少の無神経は仕方がないか。 「わからない。可能性としては古泉一樹の言ったこともあり得る」 「ならとりあえず何らかの方法でハルヒを満足させてやれば問題はないんじゃないか?」 「問題はある」 「なんでだ?この事態をおさめるにはそれしかないと思うんだが」 「違いますよ。……この事態をおさめることに少しばかり問題があるのです」 古泉が慌てて口を挟む。 どういうことだ? 少しばかり考えごとをしていたら話に全くついていけなくなっちまったぜ。参ったな。 とはいっても『俺』もついていけてないみたいだがな。 「何の問題があるんだ?」 再び尋ねている。古泉は長門と顔を見合わせた後、ゆっくりと話す。 「これが解決すると、彼が……消える可能性があります」 「どういう意味だ?」 「もし彼がどこかから来たのであればそこに帰るだけでしょうが、そうでないならば……」 「あっ!……」 『俺』の顔色が変わる。 そうだな。二人いてそれを一人に戻すということは俺が消えるってことになるか。 ……死ぬってことになるんだよな。 『俺』が慌てて俺の方を向いて言う。 「……すまん」 「いや、気にするな」 また沈黙が訪れる。 「もちろんそうでないという可能性もあります。 例えばあなたが涼宮さんの力によってパラレルワールドからやって来たというのもあり得ることですし、 逆に涼宮さんの力によってあなた以外の全てが創り変えられたということも無いとは言いきれません」 可能性か。確かにそうなんだろうが。 「でも、お前はその可能性は低いと思うんだよな?」 「……すいません」 「いや、気にするな。お前が謝ることじゃない」 とりあえずこれからどうするかが問題だな。 「古泉、なら俺はどうしたらいい?」 「そうですね。ずっとこのままでいるというわけにはいかないでしょうが、少し様子を見ましょう。 あなたにも考える時間が要りようかと」 そうだな。まだ頭の中がごちゃごちゃしてよくわからん。 「とりあえず、ゆっくりと息をつけて考えたい」 このまま『俺』と顔を合わせてたんじゃ、なんとなく落ち着かん。 家に帰ってからじっくりと考えることにするか。 ……ん、家? 「あなたは家には帰れない。私のところに」 確かに俺が二人帰ると家の中がとんでもないことになってしまうな。 「そうだな、そうするしかないか」 「そう」 長門は微かに頷く。 「けどいいのか?迷惑じゃないか?」 「ない。他に行きたい所でも?」 「いや、そういうわけじゃない。もちろんありがたい」 「なら問題ない」 結局また長門の世話になっちまうみたいだな。 「では今日のところはこのくらいにしておきますか。僕もこれからのことを考えておきます」 「ああ、頼むぜ。何かわかったらよろしくな」 「帰る」 と言って歩き出した長門に従いその場を後にする。 「俺もできるだけのことはしたいと思う。できることがあれば言ってくれ」 『俺』が後ろから声をかける。 「色々とめんどくさそうなことになってすまんな。何かあれば言うことにするさ」 ◇◇◇◇◇ 第三章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4639.html
長門有希がある気掛かりな夢から目が覚めると、乳房が大きくなっていた。 極めて起伏の少ない体に設定されているにもかかわらず、今の大きさは涼宮ハルヒの乳房に匹敵する。しかも、圧迫すると白濁した分泌物が噴出する。 「……身体情報の改変を検出。原状回復のための有機情報連結解除及び再構成を申請する。」 普段の自分の体とはあまりに掛け離れたこの姿。このまま登校するわけにはいかない。 『Application was rejected.』 しかし、申請は拒絶された。その他、見た目だけを元に戻すなど様々な回避策を講じたものの、それらはすべて拒絶された。 ここまで状況証拠が揃えば間違いない。この現象は涼宮ハルヒの仕業と断定できる。そして、彼女がその状況を強く望んでいることも。 では、どのような対策を講じるか。様々な方法を検討した結果、学校に連絡した上で午後から登校することにした。 放課後の文芸部室。既に噂になっていた有希の現状を確かめようと、全速力で部室に飛び込んできたハルヒは、我が目を疑った。 「ちょっと、有希! どうしたのよ、その胸は……!」 変わり果てた……細身であるため余計に胸部の隆起が目立つ有希の姿に、文字通り目を丸くする。 「今朝起きたら、腫れていた。」 「腫れてるの!? 痛くない?」 「すこし。」 ハルヒは心配そうな顔で有希を見ている。 「しかし、すごい変化ね。腫れてる以外に、何か変わったことはない?」 「他には、圧迫すると、白濁した分泌物が出る。」 「……え?」 有希の冷静な状況説明に、ハルヒの動きが止まる。 「分泌物を出すと、少し痛みが和らぐ。しかし、時間が経つとまた張ってくる。」 「ちょ、ちょっと、有希! お、おっぱいを搾ると、白い液体が出るっていうこと? それって、まさか……!?」 「…………?」 有希は、ハルヒが何が言いたいのかを理解できなかったが、次の言葉で理解した。 「うちの娘を孕ました奴は、どこの馬の骨じゃぁぁぁぁ!! シゴウしゃげたる!!」 ハルヒは般若の形相で絶叫していた。 「まずは検査薬で物的証拠を固めてから、相手に迫るわよ! もちろん、とりあえず動かなくなるまで殴ってからね!!」 そう言って今にも薬局・薬店に駆け出そうとするハルヒのスカートのベルトを、有希の指がしっかりと捉えていた。 「たわわ!? ちょっと、有希! どこ掴んでんのよ! スカートが脱げちゃうじゃない!」 ずり落ちたスカートを引き上げながら、ハルヒは非難した。しかし、有希は平坦な声で、 「まずは落ち着くべき。」 「これが落ち着いていられますかって!」 髪を振り乱して絶叫するハルヒに、有希はなおも冷静に告げる。 「妊娠の事実はない。これはただのホルモンバランスの崩れ。生理不順の類と同じ。」 「何ですって!? そんなこと言ったって、あんた。その膨らみ方は尋常じゃな……」 「わたしは、男性とそのような関係を持ったことはない。」 「…………」 なおもジト目で睨むハルヒに、有希は真摯な瞳で、 「……信じて。」 ハルヒは、やがて溜め息を一つついて、 「……まあ、あたしだって、有希がそんなことしてるとは信じたくもないわ。」 「午前中に診察を受けてきた。取りあえずは経過観察となった。」 「そっか。様子を見るしかないのかしらね……」 取りあえず落ち着いたハルヒは団長席に着き、有希も定位置で読書を開始した。 ハルヒはPCでネットの情報を検索しながら、有希の方をちらちらと見ている。しかし、やがて我慢できなくなったのか、 「……ねえ、有希。今、胸が張って痛い?」 「……わりと。」 「えっと、お、お乳を出せば、しばらくは痛くないのよね?」 「そう。」 ハルヒは席を立つと、部室の扉を施錠して、有希の背後に回りこんだ。 「分かったわ。ちょっとじっとしてなさい。」 そう言うとハルヒは、有希の乳房を揉みはじめた。 「勘違いしないでよね。これは、『治療』なんだから。」 さっき熱心に調べていたのは、「母乳の出を良くするマッサージの方法」だったらしい。 「服の上からだとやりにくいな、やっぱり……有希、ちょっとごめんね!」 ハルヒは有希の制服をめくり上げ、そして絶句した。 「サ、サラシ……」 有希の胴体には、隙間なくサラシが巻かれていた。 「突然大きくなったので、下着のサイズが合わなかった。」 「だからって、何もサラシを巻かなくても……Tシャツとかさ。」 「Tシャツでは、乳首の突起を隠せなかった。」 「……病院に行った足で、買いに行けば良かったんじゃ……」 「うかつ。気が動転していて、そこまで意識が至らなかった。」 「いや、まあ、そうよね。朝起きたら、いきなりそんなことになってたんだよね。ごめん。ああ、でも、ぐっしょり濡れちゃってるわね……」 サラシの胸の部分には、二つの染みが広がっていた。 「そのままだと色々まずいから、一旦サラシを取るわよ。」 丁寧に巻かれたサラシを、丁寧に取り去ると、有希の乳房が顕になった。 「うわ、でっかい……じゃなくて。オホン。さっきも言ったけど、これは治療だから!」 ハルヒは顔を真っ赤にしながら、乳房や乳首のマッサージを始めた。 「有希のおっぱいを揉んでるなんて、何か信じられない気分だわ……あっと! 飛び出た……」 無表情で胸を揉まれる少女と、だんだん無口になっていく、胸を揉んでいる少女。一種異様な光景が続いた。 「そろそろいいかな……」 乳房を入念に揉んだ後、ハルヒはおもむろに有希の『ぼにう』をむさぼった。 「……ぷはっ! あー、念のために言っとくけど、そのまま飛ばすわけにはいかないでしょ? だからあたしが飲んで処理してるわけよ。OK?」 「……これが『母乳』と断定されたわけではない。ただの『膿』である可能性も否定できない。」 「いいの! 有希の体から出るものに、汚いものなんかないの! 美味しかったから大丈夫なの!」 そこまで言って、ハルヒは、はっと何かに気付いたように、 「い、今、何か、あたし、とんでもないことを口走ったような……」 激しく赤面しながら、もじもじするハルヒ。だが、やがて吹っ切れたように、 「これは治療行為、これは治療行為、これは治療行為、これは治療行為……」 うわ言のようにブツブツ呟きながら、また有希の『ぼにう』を吸い始めた。 「これは治療行為、これは治療行為、これは治療行為、これは治療行為……」 ひたすらブツブツ呟きながら有希の乳房に吸い付くハルヒは、自分の頭が有希に優しく……まるで母乳を吸う赤子を抱くように抱きかかえられていることに気付いていなかった。 「……ぷっはー! と、とりあえず、あらかた吸い尽くしたわ!」 しばらくの奮闘の末、ハルヒの「治療行為」は終了した。 「……かなり楽になった。」 「とりあえず乳首は防水も兼ねて、絆創膏でブロックしなさい。それならTシャツでも大丈夫でしょ。」 有希は無言で頷いた。ハルヒは早速、有希に絆創膏を貼る。その後は再びサラシを巻く作業になった。 結局その日は、有希の体調を考慮して、ということで、そのまま解散となった。 翌朝、有希が目を覚ますと、乳房が大きくなったままだった。しかも、圧迫すると白濁した分泌物が噴出するのも同じ。 「……原状回復のための有機情報連結解除及び再構成を申請する。」 『Application was rejected.』 今日もダメだった。これは、またハルヒに『ぼにう』を吸われることになるだろう。 「涼宮ハルヒは……わたしの胸を揉んだり吸ったりしたいと欲している……?」 もしそうならば、彼女が満足するまで、この状態は続くだろう。 有希は、新しい下着と搾乳機の購入を真剣に検討していた。
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/55.html
涼宮ハルヒの動揺 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成17年(2005年)4月1日 本編293ページ 表紙絵:涼宮ハルヒ タイトル色:赤色 初出ライブアライブ(ザ・スニーカー2004年12月号)、朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00(ザ・スニーカー2004年2月号)、 ヒトメボレLOVER(ザ・スニーカー2004年10月号)、猫はどこにいった?(書き下ろし) 朝比奈みくるの憂鬱(ザ・スニーカー2005年2月号) 初出順:ライブアライブ(第15話)、朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00(第8話)、ヒトメボレLOVER(第13話)、猫はどこにいった?(第17話)、朝比奈みくるの憂鬱(第16話) 裏表紙のあらすじ紹介 幻にしておきたかった自主映画だとか突然のヒトメボレ告白、雪山で上演された古泉渾身の推理劇や、朝比奈さんとの秘密のデートSOS団を巻き込んで起こる面白イベントを気持ちいいくらいに楽しんでいる涼宮ハルヒが動揺なぞしてる姿は想像できないだろうが、分かさのハプニングであいつが心を揺らめかせていたのは確かなことで、それは俺だけが知っているハルヒの顔だったのかもな……。お待ちかね「涼宮ハルヒ」シリーズ第6弾! 目次 ライブアライブ・・・Page5 朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00・・・Page52 ヒトメボレLOVER・・・Page95 猫はどこにいった?・・・Page187 朝比奈みくるの憂鬱・・・Page242 あとがき・・・Page298 アニメ 2009年改めて放送した『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2009年放送第25話『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』 2009年放送第26話『ライブアライブ』 2009年放送第27話『射手座の日』 2006年放送したテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2006年放送第1話『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』(DVD第01話 構成第10話) 2006年放送第12話(DVD第12話 構成第12話)『ライブアライブ』『ヒトメボレLOVER』『猫はどこにいった?』、『朝比奈みくるの憂鬱』は未アニメ化。 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第6巻に収録『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』は未コミカライズ。(溜息に内包の状態) 第28話『ライブアライブ』 番外編『ショー・マスト・ゴー・オン』 コミックス第10巻に収録第43話『ヒトメボレLOVERⅠ』 第44話『ヒトメボレLOVERⅡ』 第45話『ヒトメボレLOVERⅢ』(雑誌表記ではヒトメボレLOVER最終話) コミックス第11巻に収録第50話『猫はどこにいった?Ⅰ』(原作P187-P217) 第51話『猫はどこにいった?Ⅱ』(原作P217-P241) コミックス第12巻?に収録第54話『朝比奈みくるの憂鬱Ⅰ』(原作P242~P275、最初からハカセ君救出後みくるが泣くところまで) 第55話『朝比奈みくるの憂鬱Ⅱ』(原作P275~P297、みくるが泣くところから最後まで) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 キョンの妹 中河 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 シャミセン シャミツー ハカセ君 あらすじ 後に繋がる伏線・謎 文化祭時に表われた中世風の服を着た集団 刊行順 ←第5巻『涼宮ハルヒの暴走』↑第6巻『涼宮ハルヒの動揺』↑第7巻『涼宮ハルヒの陰謀』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/525.html
これは「涼宮ハルヒの改竄 Version K」の続編です。 プロローグ 俺はこの春から北高の生徒になる。 そして明日は入学式だ。 担任教師からは「もう少し頑張らないときつい」と言われたし 親父と母さんは「もうすぐ高校生なんだからしっかりしなさい」と言われた。 はぁ、全く以って憂鬱だね。 さぁ、明日は朝から忙しくなりそうだし、もう寝るとするか。 睡魔が俺の頭を支配する寸前、何故だか「はるひ」の泣き顔が頭をよぎった。 なんであいつの顔が出てくるのだろう? 等という疑問も睡魔に飲み込まれていった・・・ とてもいい夢を見た様な気がする。 どうせなら、現実と入れ替えたいと思うような夢だった。 ん?どうして、夢だって分かるのかって? 何故なら、それは現実ではまずありえないことだったからな・・・ だから夢だって分かる訳さ。 どうやら夢というのは一番いいところで終わるものの様だ。 もう少し見ていたい気もするのだが・・・ 最近、腕がメキメキと上がる妹のボディプレスで俺は目を醒ました。 「妹よ、もう少し優しい起こし方は出来んのか?」 「だって、こうしないとキョン君起きないもんっ!!」 ふむ、どうやら中々起きない俺にご立腹の様だな。 俺が起きたのを確認すると足早に1階へと降りていった。 それを見送った俺は枕元の時計で時間を確認する。 そこで頭が一気に覚醒した。 ヤベッ、寝坊したっ!! 起こしてもらって寝坊してたら、そら腹も立つわな・・・ 妹よ、スマン。 「涼宮ハルヒの入学 version K」 俺は慌てて部屋を出て階段を駆け下りた。 が、その時足が縺れ、俺は豪快に階段を転げ落ちた。 母さんが慌ててリビングから出てくる。 「ちょっと、キョン大丈夫っ!?」 「いって~、初日の朝からこれかよ?ダッセー」 「そんなことどうでもいいわよっ!!それよりちゃんと立てるの?」 「あぁ、大丈夫だ。朝から騒々しくしてスマン」 そう言って俺は立ち上がった。 が、一瞬フラついて壁に手を当てた時、俺の腕に激痛が走った。 「っ痛!」 俺はもう片方の手で痛みが走った腕を押さえた。 「ちょっと腕見せてみなさい」 それを見ていた母さんは、俺の腕を心配そうな顔で見ていた。 「折れてはいないみたいだけど、一応病院に行った方が良さそうね」 「これ位なんて事無いから、大丈夫だ」 と言った俺は母さんにポカっと頭を殴られた。 「確かにただの打撲かもしれないけど、万が一って事があるでしょ?学校には連絡しとくからとりあえず支度だけはしときなさい」 「分かった。朝から面倒掛けてスマン」 「いいわよ。あたしが年取ったらいっぱい面倒掛けてやるんだから。覚悟しておきなさい」 この時ばかりは母親の強さというものが骨身に染みた。 「あぁ、幾らでも掛けてくれ」 「えぇ、そうさせてもらうわ。お父さん帰ってきたらすぐに病院に行くわよ。だからさっさと着替えなさい」 と言いながら俺の寝巻きを剥いできた。 「ちょ、自分で脱ぐからそれだけは勘弁してくれ~」 「何言ってんの?腕怪我してて自分じゃ脱げないだろうと思って手伝ってやってんじゃない。いいから黙って剥かれなさい」 前言撤回したくなってきた。 この人は間違いなく遊んでいる。 そこへ妹が興味を引かれてやってきた。 「何してるの~?」 「なんでもあr「あ、ちょうどいい所へ来たわ。キョンが腕に怪我したから寝巻き脱がすの手伝って」 「そうなの~?キョン君大丈夫~?」 それを聞いた妹は心配そうな面持ちで俺を見てきた。 あぁ、お兄ちゃん想いの妹を持って俺は幸せ者だなぁ等と思っていたら、妹は俺のズボンを引っ張り出しやがった。 ここから 「こ、こら、ズボンを引っ張るんじゃありません。」 「なんで~?ケガしちゃって大変なキョン君のお手伝いしてるだけだよ~」 もはやこの親娘を止められる奴なんかこの世に存在しない事を悟った俺は抵抗を諦めた。 「好きにしろよ、もう」 母さんと妹から強制ストリップショーを敢行させられた俺は無事北高の制服に身を包んでいた。 のだが、それだけでは終わらなかったのである。 現在、母さんは学校と親父に電話を掛けている。 俺はというと、テーブルに座り朝食にありつきたいのところなのだが箸を妹に拘束され、俗に言う「お預け」状態にあった。 俺は俺の箸を強奪して至極楽しそうにしている妹を恨めしい目で見た。 「お母さんが電話終わるまで待ってなさいって言ってたでしょ?」 いったい何なんだこれは?果てしなく嫌な予感がするぞ。 そして母さんが電話から戻ってくると俺の嫌な予感が的中したのだ。 「腕が痛くてご飯もおちおち食べられないキョンのために、あたし達が今日だけ特別に食べさせてあげるわ」 なんですと~っ!? 今、この人はなんて言ったの? って、俺が現実逃避している間に母の手により一口サイズにつまんだ白米が口元まで進攻してきていた。 っく、覚悟を決めるしかないのか? 「最近、キョンったら全然釣れないんだもの。こういう時しかキョンで遊べないもんねぇ?」 「うん、キョン君で遊ぶの久し振りだから楽しい~」 こいつ等、やっぱり遊んでいたのか・・・ 親父、早く帰ってきて俺を助けてくれ。 もう、あなただけが頼りだ。 その時、玄関の方から「ただいま~」と救世主の声が聞こえた。 グッジョブ親父!! と思ったのもつかの間だった。 「なんだ?怪我したっていうから急いで帰ってきたのに、随分羨ましい事してるじゃないか?」 「そう思うんだったら代わってくれ、今すぐに」 「キョンってば冷た~い、あたし達はもっとキョンと仲良くしたいだけなのに」 「キョン君は私達が嫌いなの~?」 なんなんだ、このアホアホ家族は・・・ 「分かった、分かったよ。有難く頂きます」 俺はヤケクソで母さんと妹から運ばれる朝飯を食い尽くした。 「美味しかった?美味しくない訳無いわよね~?」 「あぁ、美味かったよ。もうお腹いっぱいだ、色んな意味でな」 「そう?褒め言葉として受け取っておくわ」 俺の皮肉もどこへやらで母さんはどうやら満足したらしい。 はぁ、やれやれ・・・ 「じゃあ、そろそろ病院行きましょうか」 やっとか・・・長かった。 「おぅ、先にこいつと車で待ってるぞ」 「分かったわ~」 というわけで俺は今親父と二人、車内で母さんと妹を待っている。 「怪我はどうなんだ?そんなに酷いのか?」 「いや、ただの打撲だと思う」 「そうか、あんまり母さんに心配掛けるなよ。あぁ平静を装ってるが、内心はパニック寸前なんだからな」 また迷惑を掛けちまったな。 後できちんと謝ろう。 「あぁ、分かってる。これからは気を付ける」 「あぁ、そうしてくれ。あとたまにはちゃんと話もしてやれ。母さん寂しがってるぞ」 「そうする」 そうだ。普段は強気でいるけど母さんはその実とっても弱いんだ。 俺は母さんをどれ位傷つけたんだろう・・・ 図体ばっかで全然成長出来てないな俺・・・ その時、母さんと妹が車に乗り込んできた。 「ごめ~ん、お待たせ!!さぁ、病院へレッツゴー!!」 母さん、病院はそんなハイテンションで行くところじゃありませんよ・・・ その後、病院へ行って診察してもらった結果やっぱり打撲だった。 それを聞いた時の母さんの安心しきった顔を俺は一生忘れないだろう。 そんなこんなでやっと北高へ着いた。 もう式も終わっていて今はクラス毎にLHRが行われている時間だ。 俺は「もう式も終わってるんだから今日は休もう」と言ったら「ダメ。初日からサボリなんて許さない」と両親から最大級の威圧を与えられ今、受付に向かっている。 俺は片付けを始めている受付で自分の受験番号と名前を述べた。 「受験番号???の○○○○です。事情が合って遅れてしまったのですがクラスを教えて頂けますか?」 「はい連絡は受けています。○○○○さんのクラスは1年5組になります。座席表は教室の入り口に貼ってありますから教室に入る前に確認して下さい。本日は御入学おめでとうございます」 「はい。ありがとうございます」 俺はペコッと頭を下げると1年5組の教室を目指した。 教室のドアの前に立って自分の席を確認した。 どうやら、今教室内ではクラスメイト達が自己紹介をしている様だ。 その時、自分の後ろの席の奴の名前が「涼宮ハルヒ」と書かれていることに気づいた。 へぇ、あいつと同じ名前だなぁ、どんな奴だろ? もしかしてあいつだったりしてね? いや、そんなドラマ的展開はないか。 あいつは今元気でやってんのかなぁ?等と考えつつドアを開けた。 「東中出身。涼宮ハr「遅れてすいませんでした~」 ヤベッ、自己紹介と被っちまった。 とりあえず謝っておくか。 背後から怒りのオーラ出しまくってるしな。 なんか、今日は朝から謝ってばっかりだな、俺・・・ 「あ~、とりあえずスマン」 謝った途端、そいつはこっちを怒り120%で睨みつけてきた。 そこにはすっかり美人になった「はるひ」がいた。 いや、前に会った時も十分美人だったぞ。 今のはそれ以上という意味だ。 って俺は誰に説明してんだ? 俺が見惚れているとハルヒが聞いてきた。 「ちょっとジョン、なんであんたがここにいるのよ?」 おいおい、誰だよそりゃ? 「誰だ?そのジョンというのは?頼むからこれ以上変なあだ名は増やさないでくれ。はるひ」 「じゃあ、あんたはあの時の「あいつ」なの?」 「あぁ、久しぶりだな」 「ホントにね。ってか何であたしの名前知ってんのよ?」 あぁ、周りの目線が冷やかしモードになってきたな。 初日からこれはマズイ、色んな意味で・・・ 「それは話せば長くなるんだが、とりあえず後にしよう」 頭に?マークを浮かべているハルヒに手で周りを見るように促した。 ハルヒは満足出来ないという面持ちだったがとりあえず席に座ってくれた。 はぁ、とりあえず助かった・・・のか? 俺は、このクラスの担任らしい人に挨拶をした。 「遅れて申し訳ありませんでした。ただの打撲で済みました」 「そうか、それは良かった。しかし、打撲だからといって侮っちゃだめだぞ」 「はい、ご心配おかけしました」 「よし、じゃあ席に着け。今は見ての通り自己紹介をしてもらっている最中だ」 「はい」 そう言うと俺は自分の席に着いた。 「じゃあ、今来た○○○○には最後に自己紹介をしてもらう。悪いが涼宮もう一回頼む」 な、なんだって~っ!? まぁ、落ち着こう。 落ち着いてハルヒの自己紹介を聞こう。 「東中出身。涼宮ハルヒ。趣味は不思議探索です、以上」 なるほど、不思議探索ね。 って、不思議探索ってなんだ? 後で聞いてみよう。 こちらに向けられている怒りの視線の理由と一緒に。 そして、本来なら最後のクラスメイトの自己紹介が終わり俺の番がやってきた。 「○○中出身の○○○○です。一年間よろしくお願いしま~す」 なんともありきたりな自己紹介だと自分でも思う。 しかしながら、変にギャグキャラを気取って一年間そのキャラを演じ続けられる自信もない。 今日の予定は全て終わった様でSHRの後、本日は解散となった。 席に座ってボーっとしていると国木田が話しかけてきた。 「キョン、朝から災難だったみたいだね~」 「あぁ、全くだ」 ホント色んな意味で大変だったさ。 「キョン、この後はどうするの?」 さっさと帰って寝たい気もするが、ハルヒと少し話をしようと思う。 まぁ、そんな事を国木田に言えるわけも無く 「あぁ、ちょっと用事がある」 と誤魔化した。 「そうなんだ、じゃあまた明日ね」 「あぁ、じゃあな国木田」 国木田を見送るとハルヒの方に視線を向けた。 「な、何よ?キョン」 ちょ、お前まで俺をそう呼ぶのか!? 俺は「やれやれ」と言いながら溜息をついた。 なんとかやめてくれないものかと微かな希望を持ってハルヒに言った。 「お前も、俺をその名で呼ぶのか?出来たら勘弁してもらいたいのだが」 「いいじゃない。キョンの方が愛嬌があるんだから」 「はぁ、もう好きにしてくれ」 ハルヒの機嫌もどうやら良くなっているようだからな。 「そうするわ。でもホントに久しぶりだわ。キョンはあんまり変わってないわね」 あぁ、俺も朝に自分でそれを思い知ったさ。 「ははは、そうかもな。ハルヒはとっても綺麗になったな。一瞬誰か分らなかったぞ」 ハルヒの顔が段々赤くなっていく。 さて、俺は今なんて言ったんだろうな? え~っと・・・ うわっ、何恥ずかしい事さらっと言ってんだ俺!! 自分の顔が熱くなっていくのが分かる。 その時、ハルヒの携帯が鳴った。 と思ったら俺の携帯も鳴り出した。 発信は母さんか。 何の用だろうな? ハルヒが俺の方を見ているので俺もハルヒを見て無言で頷いた。 ハルヒが電話に出たのを確認して俺も電話に出た。 「あ~、俺だけど」 「あっ、キョン?もう遅いわよ、何してるの?今から昼ごはん食べに行くからさっさと出てきなさい」 「ん、分かった。今から行く」 「ちゃ~んと、ハルヒちゃんと一緒に出てくるのよ、いいわね?一緒に来なかったら昼はキョンの奢りだからね」 「おい、母さん何言t「プチ」 ツー ツー ツー 何で母さんがハルヒがいるって知ってるんだ? さっぱり、理解できん・・・ 隣を見るとハルヒが俺と同じような事を考えてる様な顔をしている。 俺はまた「やれやれ」と溜息をついた。 俺とハルヒは横に並びながら昇降口へと向かった。 昇降口を出ると、親父と母さんがどっかで見た事ある人と話をしていた。 誰だっけ?どっかで見た事あるんだよな。 あっ、あれってまさか・・・ 「キョン、どうしたの?」 一応聞いてみるか・・・ 「あれ、お前のとこの両親だよな?」 「うん、そうだけどそれがどうかしたの?」 だよな、道理で見た事あるはずだ。 「隣に居るのは俺の両親と妹だ」 「ふーん、そうなんだ。って、えぇ、な、何であたしの両親とあんたの両親が仲良く話してんのよ?」 「俺にもさっぱり分からん」 すると妹がこっちに気づいた。 まだ気付くな!まだ心の準備が出来てない!! 「あ~、キョン君達来たよ~」 「や~っと来たの。もう、ハルヒちゃん可愛いから2人の世界に入っちゃうのは分かるけど、少し位周りの事も考えなさいねキョン」 「ですよね~。でもキョン君もあんなに格好良いからハルちゃんが夢中になるのも分かるわ。あたしもあと20歳若かったらキョン君狙ってます」 等と俺の母さんとハルヒの母親が冷やかしてくる。 「ちょ、何勘違いしてるのよっ!?あたし達はそんなんじゃないわよ」 「「ふ~ん」」 「あ~もう!!黙ってないでキョンも何か言ってやりなさいよっ!!」 だめだ。相乗効果で手がつけられなくなっている。 「スマン、ああなると母さんは止まらないんだ。諦めてくれ」 「あんた、苦労してるのね。親からもあだ名で呼ばれてるし」 「分かってくれるか?」 「えぇ、あんたに送ってもらった日からあたしの母さんもあんな感じだから・・・」 「お互い苦労するな」 「全くね。でも、あんたとなら誤解されてもあたしは嫌じゃないけどね」 「え、それはどういう意味だ?」 「なんでもな~いわよっ!!」 そう言って走って行くハルヒの顔は心なしか赤かった。 俺はダブルマザーの元へ走っていくハルヒを追い掛けた。 その後、俺の家族とハルヒの家族とで合同入学祝いが執り行われた。 親たち曰く「祝い事は大勢でやるもの」らしい。 この現場をクラスメイトに目撃されてない事を祈ろう。 「高校生にもなって酒も飲めんでどうする~」 とハルヒの父親が突然絡んできた。 「いや、高校生だから飲んじゃいけないと思うんですが」 必死に抵抗していると、俺の親父まで悪ノリしてきた。 真面目なくせにノリだけはいいからな、親父・・・ ダブルマザーもアテにならないので俺はハルヒにSOS信号を発信した。 ハルヒはテーブルに置いてあった日本酒を一気に飲み干して親父達に言い放った。 「ちょっと、あたしのキョンになにしてんのよっ!?いい加減あたしに返しなさいよっ!!」 は、ハルヒさん、いきなり何を・・・ 親父達がポカーンとしている間に俺は腕の牢獄を抜け出し、慌ててハルヒの手を引いて部屋から脱出した。 俺は中庭に出るとハルヒを備え付けられたイスに座らせた。 こうしてるとあの時みたいだな・・・ あぁ、気まずい。何か話題を振らねば。 「どうしたんだ、いきなり?あんな事言うからビックリしたぞ」 「ん、ごめん・・・」 こうして見るとやっぱりあのときのハルヒだな。 そう思い、俺はハルヒの頭を撫でた。 ハルヒは恐る恐る顔を上げて俺を見上げてくる。 俺はそれに応えるように微笑んだ。 「もう、すっかり元気になったみたいだな。これでも結構心配してたんだぞ?」 「ホントに?ホントに心配してくれたの?」 「あぁ、ホントに心配したぞ」 「ありがと・・・」 突然ハルヒが俺に抱きついてきた。 俺は心臓が止まるかと思うほど驚いていたが、またハルヒの頭を撫でてやった。 ハルヒが俺の胸元から顔を覗きこんできて、愛しさのあまり我慢が出来なくなった俺はそっとハルヒの顔に自分の顔を近づけた。 ハルヒはそれに応えてくれたようで俺の首に両腕を回してきた。 そして俺は目を閉じて待っているハルヒの唇に自分のそれを近づけた。 「あ~、キョン君とハルヒちゃんがちゅーしようとしてる~」 突然の声に驚いた俺とハルヒはばっと離れて声がした方を凝視した。 そこには妹が指を指しながら立っていた。 「妹よ、そこで何をしている?」 「ん~とね、お母さん達がキョン君達帰ってくるの遅いから呼びに言ってきてって」 「そうか、分かった。今から行くから先に戻ってなさい」 「うん、分かった~」 妹が足早に中庭を出て行ったのを見計らって俺はハルヒに話掛けた。 「だ。そうだ。残念だが次回に持ち越しだな」 「そうね、ホントに残念だわ」 「仕方ない。戻るぞ」 「えぇ、そうしましょ」 と言ってハルヒは立ち上がろうとした。 が上手く立ち上がれず転びそうになる。 俺は「やれやれ」と溜息をつきながらハルヒを抱きとめた。 「大丈夫か?またおんぶしてやろうか?」 「大丈夫、歩いていけるわよ」 ハルヒは真っ直ぐ歩けないほどフラフラしていた。 仕方ない。またあれをやるか。 「なんなら、お姫様抱っこでもいいが?」 「そうね、そうしてもらうわ」 これは予想してなかった訳ではないが流石に驚いた。 ハルヒはしてやったりという顔をしている。 こりゃ、一本取られたな。 まぁ、いいか。 「よし、いくぞ」 と言ってハルヒを持ち上げた。 こりゃいかん、これはおんぶ以上に緊張する。 「スマンが、慣れてないから首に掴まっててくれるとありがたい」 ハルヒは俺の言った通りに首に両腕を回しながら文句を言った。 「自分からするっていったんだから、しっかりしなさいよね」 あぁ、なんか懐かしいな、このやりとり。 「おう、任せとけ」 部屋に向かってる最中ハルヒは俺に聞いてきた。 「ねぇキョン、あたし変われたかな?頑張れたかな?」 「お前が自分で変われたって、頑張れたって思うのなら達成出来てるんじゃないか?」 「うん、そうだよね。でもね、あたしを変えてくれたのも、頑張れるようにしてくれたのもキョンなんだよ」 「そ、そうなのか?」 びっくりだ。 俺なんかが誰かの役に立てるなんて。 「うん、そうだよ」 「そうか、それは光栄だね」 「だからキョン、これからずっとよろしくね!!」 「おう、こちらこそよろしくな」 部屋に到着するとみんなビックリしていた。 まぁ、当然だよな。 俺は腕からハルヒを下ろした。 残念そうに見えるのは・・・気のせいじゃないだろう。 ハルヒは何かを思い出したらしい。 ハルヒは制服のポケットからアイロンをかけたハンカチを取り出して俺に差し出した。 「キョン、これ返すわ。いままでありがと」 「ん、あぁ、これか。なんだったらずっと持ってていいぞ」 「ありがと。でも、もう必要ないわ。だって・・・」 「だって?」 聞き返すまでも無いな。 「これからはずっとキョンと一緒なんだからっ!!」 fin エピローグ(ver Hのエピローグ2の続き) 「ねぇ、キョン。さっきの続きしよ?」 「ん?あ、あぁ」 正直俺は混乱しまくっていた。 さっきのってのは、やっぱり料亭でのアレの事だよな・・・ あの時は、雰囲気やら勢いやらがあったが今は違う。 クソッ、どうする俺!? 今、してしまったら歯止めが利かなくなってしまうかもしれない。 俺達、正式に付き合ってるわけじゃないんだからまだそこまでしてしまうのはマズイだろ。 俺はふと、ハルヒの顔を見た。 俺は愕然とした。 そこにさっきまでの楽しそうなハルヒは居なかった。 代わりにいたのはあの日の泣いているハルヒだった。 「あ、その、ハルヒ?」 「そ、そうだよね。あたしはキョンの彼女でもなんでもないんだからそんなの無理よね。あたし一人で勘違いしてた。ゴメンね、無理言って・・・」 どうやら考えていた事が口から出ていた様だな。 俺のバカヤロウっ!!朝、気付いた事が何にも活かされてないじゃないか!! 今日の出来事を全部思い返してみろよ!! 今日、ハルヒは何度も告白してくれて俺はそれに何度も返事してるじゃないか!? あぁ、そうだった。 ハルヒは何度も勇気を振り絞って俺に想いを打ち明けてくれたのに、俺は一度も自分の想いをハルヒに伝えていない。 だったら、今の俺がするべき事は一つだ。 俺はハルヒの肩にそっと手を置いた。 ハルヒは驚いた顔で俺を見ている。 「ハルヒ、ホントにゴメンな。お前は何度も俺に想いを打ち明けてくれたのに、俺はお前になんにもしてやれてない。ホントどうしようもねぇバカヤロウだ」 ハルヒは黙って聞いてくれている。 「あの日からいつも頭のどっかにお前がいた。お前が望むならいつまでだって傍にいてやる。だから、ハルヒもずっと俺の傍にいてくれ。頼む」 ハルヒは、俺が言い終わると同時に抱きついてきた。 「キョン・・・キョン~、・・・ヒック・・・ホントに・・・・ホントにあたしでいいの?あたしなんかでいいの?」 ハルヒは俺の胸でわんわん泣いた。 「当たり前だろ?もう、お前以外なんて考えられない」 俺も涙で何も見えない。 俺はわんわん泣くハルヒを二度と離さないように、壊さないように抱きしめた。 「ハルヒ、好きだよ。愛してる」 「あ・・あたしも・・・グスッ・・・キョンを愛してる・・ヒック・・大好きだよ・・キョンっ!!」 ガキの恋愛だと笑われたって構わない。 俺はもう、生涯ハルヒを離さないっ!! 俺は、ハルヒの頭に手を回し、そっと俺の方へと寄せた。 ハルヒはこちらを向き、まだ涙がたっぷり溜まっている瞼を閉じて待ってくれている。 俺は自分の唇を、ハルヒのそれにくっ付けた。 たったそれだけの行為でこんなにも幸せになれる。 ハルヒの唇からハルヒの想いが流れ込んでくるようだった。 どれ位していただろう・・・ お互いが自然に唇を離し、その余韻に浸っていた。 もう一度と唇を近づけた時、ドア越しに会話が聞こえた。 なんだ?と思っていたらハルヒと目が合った。 どうやら、ハルヒにも聞こえるらしい。 俺とハルヒはそーっとドアに近づき、聞き耳を立てた。 「・・・・・ルヒちゃんはうちのにはもったいない位です。」 「ホントよね。キョンにはもったいないわ」 「そんなこと言わないで下さい。キョン君以外の子にハルヒを上げる気はないんですから!ね、お父さん?」 「そうですよ。十分ハルヒと渡り合っていけます。あの子が私以外の異性であんなに楽しそうに話すのはキョン君だけなんですよ」 「そう言ってもらえると光栄です。これからもうちのをよろしくお願いします」 「あたしからもよろしくお願いします」 「「こちらこそ」」 ハルヒは肩をワナワナさせている。 どうやら大変ご立腹の様子だ。 無論、俺も例外ではないのでアイコンタクトを取ると一緒にドアを物凄い勢いで開けた。 「「さっさと寝ろ~っ!!雰囲気ぶち壊しだ~っ!!!!」」 この後、親たちから散々からかわれたのは言うまでも無い。 はぁ、やれやれ fin エピローグ2 後日談 「そういや、なんであの時ハルヒの両親と一緒に居たんだ?」 俺はふとそんな疑問を母さんにぶつけた。 「あぁ、あれ?とりあえず気分だけでも味わおうと思ってみんなでブラブラ校門の辺りを歩いてたら会ったのよ」 「へぇ、そうなのか?」 「うん、そうなのよ。まぁ、初めから一緒に入学祝いをする計画だったんだけどね」 「ふーん。って、あの時初めて会ったんじゃないのか?」 「違うわよ?えーっと、そうね。もう、3年位の付き合いになるかしら」 「何をどうしたらそうなるのか教えてもらいたいもんだ・・・」 「いいわよ、教えてあげる。あれは、たしかあんたがハルヒちゃんを送った3ヶ月後くらいかしらね。お父さんと買い物に行った時偶然会ったのよ」 何なんだ・・・この因果律は? 「で、そのまま一緒にお昼ご飯食べて仲良くなったわけ。どう?分かった?」 「あぁ、理解した。で、なんでそれを俺に隠してたんだ?」 「だって、親が横槍入れたら上手くいくものも上手くいかなくなるでしょ?」 「なるほど。って納得いかん。って事はあれか?同じ高校に入る事も事前に知ってたのか?」 「もちろん!!でも、まさか同じクラスになるとは思わなかったわ」 そりゃそうだ。そこまで操作出来る訳がない。 「もうあれね?これは運命よね?キョン、あんたハルヒちゃんとチューしたんだからちゃんと責任取りなさいよ?」 「あぁ、そうする」 これからもお互い苦労しそうだ。ハルヒよスマン。 「あぁ、早く孫を抱きたいなー。あたしはハルヒちゃんそっくりの女の子がいいわ。キョン頑張ってね」 もう何を言っても聞きそうにないな・・・ はぁ、やれやれ・・・ fin 涼宮ハルヒの入学 version H
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2779.html
・・・10日目だな。 ・・・ ・・・・・・!? 俺は飛び起きた。 叫びたくなったが自重しておこう。ハルヒに気づかれたらたまったもんじゃない。 時計を見る。まだちょっと早い。もう少し寝ようか、いやだめだ。寝れんだろう。 別に大したことじゃない筈なのに何でこんなに動揺してるんだろうか。 俺は今日夢を見ていない。 そうだ。昨日見た夢がもう2年以内の最近のことだったから見せるに値する夢が無かったのかもしれない。 とにかく何か知らんがもう夢を見ることは無いのかもしれない。 でもいくら俺が開き直ったとはいえ、いきなり俺だけに奇妙な現象が起きていきなり終わってしまうとなると、理由がどうしても知りたくなる。推理小説において犯人の動機を知りたくなるのと一緒でな。 といっても考えてもどうしようもないのはわかっているので俺はいつも通りの行動に徹することにした。 ハルヒと共に朝食を食べて仕事に出る。夢を見ていない他に何一つ違和感は無かった。 「ただいま」 俺は雑念疑念がどうしても尽きないまま帰宅する時間を迎えた。 晩飯が用意してあった。まだ温かい。作りたてだろう。 ハルヒはまた居間で寝ていた様子だか、俺の声を聞いて起きたようだ。 「キョン?おかえり・・」 「ったく居間で寝るなって言っただろ。」 「5分ぐらいしか寝てないわよ。ほらさっさと食べるわよ。」 「お前の分が無いんだが。」 「だからダイエットって言ったでしょ。」 「おい、いくらダイエットとはいえ食事抜きは健康に悪い。やめとけよ。」 「デザートは食べるからいいの」 やれやれなんと理不尽な言い訳だ。なんだかハルヒの様子を見るとやせるというよりやつれてしまうのではないかと心配だ。 ハルヒは太っている事を気にしている様子なぞ見たことが無いし、それ以前に太ってなどいない。完璧なプロポーションを保っているというのにそれを崩すのは誠にもったいない。明日にでもやめさせてやる 。 ひょっとしてこれも夢に関係が・・・いやまさかだな。もう夢は終わったんだ。今更考える必要は無いだろうと自分に何度も言い聞かせただろうが。 食事を終えるとハルヒがデザートを持ってきてくれた。 デザートは久しぶりなので心が躍る。それもハルヒの手作りときたもんだ。 「ありがたーく頂くことね。あんたの好きなプリンだから。」 いや、プリンが好きなのはお前だろうに。まぁ俺もだがな。 こうしてハルヒと横に並んで座りながらデザートを頂いた。 相変わらずなんて美味いんだ。俺は夢中で食べてしまった。 ハルヒはそんな俺をちょっと呆れた視線で眺めていた。もっと味わって食べろってことか。 ハルヒより先に食べ終わった俺は適当に感想を言ってみる。 「ほんとにお前の作るもんはどうしてこんなに美味いんだよ。」 「もう、だったらもっと舐めるように味わって食べてよね。」 「すまんな。」 ここで俺はふっと頭に蘇ってきたあの日を思い出した。 最初に見たあの夢。俺とハルヒがまだ意地を張り合っていたあの日だ。 あの時もハルヒは俺にプリンを作って様子見してたんだっけ。 俺がプリンを好きだと言ったから。ハルヒの作ったプリンを食べたいと言ったから。 そしてそれは今現在にも繋がっている。 急に衝動がこみ上げてきた。急に言葉を伝えたくなった。いつも思っていることだ。俺もハルヒも解りきっていることだ。それでも・・・ ハルヒは俺が黙り込んだのを見て変な視線を向けてくる。 俺はいつも心の中で呟いている事をそのままハルヒに向かって言った。 「いつもありがとう。愛してるよ、ハルヒ」 突然の俺の言葉にハルヒは呆然としてしまった。 考えてみると空気もへったくれもないこの場でいきなり言うのはNGだったか。 もういいか。ハルヒも解りきってることだしこんなタイミングで言うのは可笑しいよな。 はぁ?いきなり何言ってんの とかいう声が今にも聞こえてきそうだ。 俺がごちゃごちゃ考えて顔やら頭やらから煙が出そうだとかもうわけわかんなくなっている間も、ハルヒはずっと黙り込んでいた。止まってるのか?再生ボタンはどこだい?さっきもう・・って本当に落ち着け俺。 ハルヒは依然として黙り込んでいた。 「ハルヒ? おいハルヒ・・?」 「・・・」 表情を読もうとする俺を阻むようにハルヒは俯いた。 まさかと思う間も無くハルヒは手で顔を覆って肩を振るわせ始める。 「ハルヒお前、泣いてるのか!?」 「・・・泣いてないわよおおー!!!」 そう言っているハルヒはどう見ても泣いているようにしか見えなかった。 俺は動揺した。俺はハルヒを泣かせるつもりで言ったんじゃないし、第一ハルヒが俺の前でこんなになるまで泣きじゃくったのだって記憶には無い。疑問が次から次へと湧いてくる。もうお手上げだ。 なので泣き止むまで待つなどどいう紳士的行動よりも疑問を口にしてしまった。 「俺のせい・・なのか。」 ハルヒは顔を覆って肩を震わせたままだ。いかん。鼻をすする音が大きくなってきた。 「だから言ったんだ。何でもいいから何かあったら言ってくれと・・」 「そうよあんたのせいよ!何でいきなりあんなこと言うのよ!!」 「何で・・て別に大したことじゃない。いつも思っていたことだ。だから・・」 「別に泣きたくて・・ッ・・泣いてるわけじゃないのよ!!勝手に・・涙が・・っ!!」 こんな時まで素直になれないところが逆に愛しいのはもうハルヒ病の証拠かね。 俺の前で感情を素直に吐露していくハルヒを俺は思わず抱き寄せた。そうせずにいられるかよ。 「泣いてくれよ。」 「・・へっ・・・」 「お前が何考えてるのか俺には全部は理解できないけどさ。泣きたくなったら怒ったり遠まわしにしたり怖がったりないで俺の前で泣いてくれよ。そういう時の素直なハルヒはすごく・・・なんというか綺麗で美しい・・からさ。」 「へんなこと言わないでよ・・余計に涙がああ・・」 「嬉しいときは嬉しいって言うんだ。特にこういう時はな。」 「バカ・・バカキョン・・嬉しいわよぉ・・!」 ハルヒはそう言って俺の腕の中で泣き続けた。俺はひたすらハルヒが落ち着くまで背中を撫でてやる。 いつも好きだと思っていても、相手がそれをわかっていても、言葉として言わないと伝わらないことがある。 愛しているなんてまさにそうだ。俺自身だってこんな恥ずかしいセリフ言うのに多少の勇気がいる。性格が性格だし、相手はハルヒだ。 でも言わなきゃだめなんだ。もしかしたらハルヒは俺が仕事で忙しいから、特に今は試験なるものもすぐそこだからな、自分と関わると俺に迷惑がかかるんじゃないかと思ってたのではないか。 俺と共に過ごす時間が俺にとって不都合なんじゃないかって。そうやって必死に我慢して、どこかループな毎日を送って、絆が薄れていく のが怖かったのではないか。 たとえ毎日でも愛の言葉が欲しかったんじゃないだろうか。そしてそれを言えるわけが無い自分の性格と葛藤し続けてきたんだ。 何でもっと早く気づかなかったんだ・・・! 「何よ。キョンの心臓・・バクバクじゃない。」 少し落ち着いたハルヒが呟いた。 「ああ、すごく動揺した。ハルヒが俺の前で初めてこんなに泣いてくれたんだからな。」 「・・・何言ってんのよ。あたしがあんたのせいでどれだけ泣かされたかわかってるの?」 「そんなに罪な男か、俺は。」 「なんなら列挙してあげるわよ。最初に覚えてるのはずっと前にあんたが今日みたいにあたしのプリンを勝手に食べてそれを誉めてくれた日。なんで涙が出るのかわからなかったけどね!」 もうこの時点で俺は気がついた。 「次はあんたがSOS団を楽しいとさりげなく言った日。なんで気持ちに気づかないんだろうって思ってたから!」 ハルヒは顔を上げて叫ぶように言い挙げていった。 「それとあんたに告白された日!あんたと付き合ってから初めて喧嘩した日!初めてあんたに抱かれた日!あんたがその日のうちに必死に仲直りしようと深夜にあたしの部屋に押しかけた日!あんたがあたしに料理を作った日!」 ハルヒの腕に力が入った。 「あんたにプロポーズされた日!あんたが夜遅くに出張から戻ってきた日!理由は全部違うけど全部あんたに泣かされたわよ!!」 ハルヒは思いつく限り全てを列挙したのだろう。 もう見事とでも言うべきか知らんが、全てに俺は心当たりがあった。 なるほどね。喧嘩話が多いのはそういうことだったのか。 夢に結婚式関連が来なかったのはハルヒが泣いていなかったから。 やっと繋がった。そうだったのか。 ここ数日俺を悩ませていたハルヒとの思い出が夢として再現される現象。 つまりハルヒは今でも俺に好きだと言われたかったんだ。 たまには俺に甘えたかったんだ。 俺の前で素直に泣きたかったんだ。 どこまで遠回りすれば気がすむんだよ。 得意の無意識下が能力を発動してしまうまでに自分を追い詰めるなよ。 俺に心配をかけさせたくないと思うなんてお前らしくないんだよ・・・。 「キョン?あんたもひょっとして泣いてるの?男のくせに。」 「知ら・・ねえよ・・っ・・」 そうして俺たちはお互いの顔を見て笑いあった。 久しぶりに交わした長くて甘いキスはかすかにプリンの味がした。 それはどこかとても懐かしい味だった気がする。 加えて、ここからは就寝時の話になる。 「ハルヒ、明日は久しぶりにデート探索するぞ。」 「えっ・・でも・・」 「有給取ったから。」 「ちょっと・・何考えてんのよ。」 「俺が、お前と過ごしたいんだ」 「・・仕方ないわね。丁度行ってみたかった所があるのよ。」 「やっぱりな。」 「明日はこのあたしに任せなさい!」 俺からの誘いなのにハルヒはリードする気のようだ。 やっぱハルヒはハルヒだな。 俺はこの日本当に久しぶりに気持ちよく眠りについた。 ハルヒも、これでもかってほど幸せそうな顔をして眠っている。 全て終わったんだ。 そう、すべて終わった。俺はそう思っていたんだ。 だってそうだろ?ハルヒが不安定になるのは今に始まったことじゃない。 だから俺はそもそも何でハルヒが能力を使ってしまうほど不安定になったのか・・・ その理由を追究しなかったんだ。すまんがこればっかりは仕方ないと言わせてもらおう。 俺は安心しきって寝ている。 これはこのとき別の言い方をすれば、油断しきっていたのだった。 ・・・11日目だな。 もう数える必要が無いのに習慣とは恐ろしい・・ と言ってる場合ではない。 俺は飛び起きた。 心臓がまたバクバクいってやがる。なんてこった・・。 「キョン?あんた今起きたの?」 「ハルヒも今起きたのか。」 隣で寝ていたハルヒも起こしてしまったようだ。 いかん。落ち着け俺。 夢を見てしまった。 それも普通の夢じゃない。あの独自の臨場感は間違いなくハルヒが見せるものだった。 1週間以上も同じ感覚を味わったから分かる。問題はそこじゃない。 今見た夢の内容は、俺とハルヒの思い出ではない。 でも確かに内容は俺とハルヒが共に過ごした日だったのだ。 いや、あれはもう間違いなく過去というより・・・ 「キョン、あたし用事を思い出したわ。ちょっと出かけてくる。」 「えっ・・!?」 「すぐ戻るから!!」 そう言うなりハルヒはすばやく着替えて車を飛ばしてどこかに行ってしまった。 こんな朝早いとコンビニぐらいしかやってないぞと言おうと思ったが、時間を見れば昼前だった。 そういや有給取ってゆっくり寝てたんだったな。 とりあえず俺は着替えたり新聞を読んだり、ついでに朝飯を用意する。 久しぶりのゆっくりとした朝だったからな。 だけど俺は落ち着かない気分になった。理由は考えない方がいい気がする。 どうも手がパソコンに向かいたいようで、仕方が無いので俺は電源だけ入れた。 自分に対してわかっていないフリをしている気分だが、そうなのかね。 そろそろハルヒが出て行って結構経ったなと思ったところで、玄関の扉が破壊される勢いで開かれた。 俺が驚いて玄関に行くとハルヒは息を切らしながら大声で叫んだ。 「キョン!!信じられない!!子供が出来たわ!!あたし達の子供よーーっ!!!」 ・・・つまり、こういうことだ。 ハルヒが気分を悪くしていたのは吐き気だった。 これは世間一般におめでたい病気といわれる『つわり』の一番わかりやすい症状だ。 俺が仕事に出ている間にもハルヒはこれで悩んでいた時があったという。 妊娠初期に訪れるつわりの複雑な症状は他にもいろいろあるわけで・・・ ハルヒがダイエット!と言ってたのはやっぱり食欲不振で(正確には好き嫌いの変化) 寝坊したのも単純に眠気に襲われるという症状だった。 そして心理不安定。これが今回の夢騒動の引き金となってしまったわけだ。 しかもハルヒはこれらの症状を本当に風邪の一種だと思い込み、全部俺に隠そうとしたという。 もう何でそこまでして俺を庇おうとするのか理解しかねる。ほんとに何で・・・ 何かを叫びたくなったが、言葉が脱力してしまう。やれやれとは言わないがな。 ということは何だ。もしかしたら長門はわかっていたのか。ひょっとしたら古泉も。 朝比奈さんもわかっているだろう。わかってて皆揃って俺が気づくのを待ってたのか。畜生め。 まぁしかしこれでようやく全てが解決したわけだ。 大変なのはこれからだけどな。 「ほら!!あんたも喜びなさいよこの偉大な発見を!!」 「発見じゃねーだろ!!それと暴れるな!体を大事にしてくれ!俺は喜んでるから!!あと病院行くなら俺も一緒に・・」 「今日はSOS団でパーティよ!!キョン!!ほらちゃっちゃと準備するわよ!!!」 やっぱり聞いてない。でも俺は凄く懐かしい感じの会話をしている気分になった。 俺の手を取って喜び回るハルヒを見ているとそんなことすらどうでもよくなっちまうんだがな。 その夜、まるでわかっていたかのように迅速に集合したSOS団と後々加わった準団員でハルヒの懐妊パーティが開かれた。 今からこんな調子で大丈夫なのかね。 まぁ俺自身が、何よりハルヒが楽しそうな様子を見ていると俺は安堵してしまうわけだ。 近い未来の出来事を色々想像しながら、俺は一人格好つけて誓ってみた。 二度とハルヒに不安を抱かせるものか、とね。 「キョン!何そこでボーっとしてんのよ!!早くこっち来なさい!!」 ・・・さて。 気分も季節もとてもあたたかい。 そんな休日に俺達は花見を兼ねて少し広い公園に来ている。 あまりにも気分が良かったので昼飯を食べた後、そのまま軽く眠ってしまったようだ。 子供のはしゃぐ声でぼんやりと目が覚めた俺は思わず心の中で呟いた。 なるほど。今日はX日目か。 Xデーという呼び名もあるみたいだが俺の法則に従えばそうなのだろう。数年前の法則だがな。 それにしてもなんと元気なことよ。元気すぎて今にも転んでしまうのではないかとちょっとハラハラする。 子供が2人、一人はどうも俺に似ているような気がして、もう一人はどうもハルヒに似ている。 まぁ俺の当たらない勘でしかないんだけどな。 「起きたの?キョン」 隣でのんびりしていたハルヒが語りかけてきた。 「すまん、ついウトウトしちまった」 「別にいいわよ。いつものことでしょ」 そう言って前を向く。そんなハルヒに俺は語りかけてみた。 「なぁハルヒ」 「何?」 「信じられるか。実は俺、この光景を夢で見たことがあるんだぜ。」 「ふぅーん。」 「もうずっと前の話だけどな」 「・・・残念でした!」 「ん?」 「実はあたしも見たことがあるのよ。でもいつだったかは秘密!」 そうかい、と返事を返し俺も前を見る。 一緒の日だったらいいかもな。 ---THE END---
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2801.html
プロローグ どこまでも長く続く廊下…。 その両側に見慣れた扉がいくつもあるのは、別に既視感でもなんでもなく、常日頃見慣れている「我が家」の扉だからだ。 ちなみに、俺が今いるところから順に「台所の扉」「居間の扉」「台所の扉」「居間の扉」…以下ループ、となっている。 台所の扉、が複数枚あるからと言って我が家が急にブルジョワな屋敷へと変貌したわけではない 。そんなに台所やら居間やら、への扉があるのは…えーと、いつだったかの冬屋敷か鶴屋さんの ご邸宅くらいのものだろう。 どちらも全てを確認したわけではないが。 廊下の幅は変わっていないようだ。毎日生活している我が家だ。いちいち計らなくともわかる。それより。 この見慣れた扉が延々と続く風景、その扉に表札がかかっているわけでもないのにその扉の向こうの風景がわかってしまうのも、それはここが我が家だからだ。そう、それはわかる、わかるのだが。 「とりあえず片っ端から開けていくしかないか」 柔和な微笑を崩さないその野郎は、俺の後ろという…、まぁ「絶好の」ポジションから動かずに、 「それしかないようですね。時間はかかりそうですが、特に危険がない、と分かった今は一つずつ確実に探していきましょう」 と答えた。台詞だけ聞いていればいつもの…古泉一樹、空間限定の超能力者野郎なのだが、なぜ首筋に息を吹きかける?そこ?聞いているか? 「とは言え…この横幅の狭い廊下です。いえ失礼、あなたのご自宅について批評しているわけではありません。とにかく、あなたは前衛を。この《迷宮》、 そう、あなたのご自宅が舞台となったこの迷宮では、あなたのナビゲーションが頼りなのですから。僕は後衛を拝領します。いえ、好きであなたの背後をとっているわ…」 「もういい。…いくぞ」 貞操の危機を感じないわけではないが…。とにかく、俺は一番手前の扉、それは「居間の扉」であったが、そのドアノブを回した。 1 「なぁに?あんた自炊くらいしないの?そんなんじゃ男としても雑用としてもレベルがあがんないわよ」 どこまでも挑戦的に輝く瞳で見つめる先には、俺の手にぶら下がっている買い物カゴ、その中には出来合いの惣菜ばかりだ。 なぁ頼むから公衆の場で雑用とか言ってくれるな。 「雑用は雑用じゃないの。団長たるあたしが雑用ってんだから、間違ってないじゃない」 店内は「タイムセール!豚挽き肉1パック380円を2パック580円!580円!」などと景気のいいアナウンスが流れている、 ここは夕方の俺の家の近所のスーパーだ。 夏休み恒例のイベントと言えば、我が家の場合、田舎へ避暑兼里帰りし、いとこ、やら、はとこ、やら、そのまたいとこ、やら、 と遊び倒すのが例年なのだが。高校2年たる俺のバトルフィールドは、田舎への近況報告や先祖様へのご挨拶のターンよりも来年の受験のほうが 俺以外の誰にとっても大問題だったらしく、その問題をまるで他人事の如く、シューティングの弾除け並みに回避し続けていたわけだが、ついに 母親にロックオンされ発射されたAAMには「予備校夏期講習」と銘打ってあった。この被弾により、今年の夏の恒例イベントは、夏期講習へと 神の速さで上書き保存され、取り残された俺は一人、スーパーで夕食の買い物に来ているわけだ。ここまではいい。が、なぜお前がここにいる? 昼間さんざん予備校ではしゃいでいただろう?頼むから昼も夕方も公衆の場で騒ぐな。そして俺のプライベートに乱入するな。 「あんた、予備校でコンビニ弁当だったじゃない?それでピンときたわけ。あんたんとこの家族が可哀想にキョンだけおいて旅行に行くって話は、 妹ちゃんからばっちり事前調査してたしね。必死に隠そうとしていたけどムダよ。ムダのムダ。SOS団の今期夏季合宿はあんたの為に中止したものみたいだしね。 そりゃあんだけ予備校の講義が入っていたらね。でもこれでちゃらにしてあげるわ」 乱入した挙句、初心者をさいたまっはやら、GHやら、イミフなコンボで叩きのめす上級者のような様子で…、おい、とにかく勝手に話を進めるな。ちゃらとは何のことだ? 「夏季合宿に決まってるじゃない!わざわざあんたを尾行してきて正解だったわ。去年、名探偵のジョブをマスターしておいて正解だったわね!」 「夏季合宿?いや、おい、ちょっと待っ」 「しゃーらっぷ!いい?キョン!今!ここで!団長たるあたしが宣言します」 涼宮ハルヒ、探偵なのか格ゲー上級者なのか、とにかくイマイチ未だに謎な我が団長は公衆の面前、夕方のスーパーの店内ではばからず高らかに宣言した。 「SOS団!夏季合宿を今夜!キョンの家で!行います!」 しばらく俺に対する近所の視線が痛いだろう…。 2 その後のハルヒの行動力は…いまさらながらだが、30分後にはSOS団全員に召集が完了していた。 しかも俺の家に。持参物に勉強用具、として付け加えていたところを見ると、ハルヒも今の立場を理解しているのだろう。 もし、あいつが俺のことを心配して、そう付け加えたのならば殊勝な所を見直してやらないわけでもないが…、 なぜ俺の家なのだ?この疑問によって、見直したところで大幅マイナスだ。 「そりゃ鶴屋さんちみたいに大きい家だったらいいんだけどね。有希のとこはいつもお邪魔してるし。 それに去年もここで宿題かたづけたじゃん」 理由になっていない理由だが、こいつの前では理由とか事情とか遠慮とか思慮とか関係ないのだろう。 なぜなら団長だからでハルヒだからだ。なんとわかりやすく、そして理不尽な。わかりやすいことだけが、世の中、納得できる事ばかりではない。 「僕も賛成ですよ。確かに我々は受験を控える立場。しかし夏の思い出が勉強ばかりと言うのにもいささかどうか、とも思います。 しかも場所があなたのご自宅とならば楽しい思い出になりそうではありませんか?」 お前は何を言ってもハルヒのイエスマンだろ?古泉。 「で、でも突然お邪魔しちゃって…。大丈夫ですか?それに、お、お泊りだなんて…?」 いいのですよ、朝比奈さん。むしろあなたと過ごす夜はこんなむさくるしい自宅などではなく、夜景のすばらしい、 「なに考えてるの、エロキョン!合宿なんだからね合宿!それにお泊りするのは毎度のことじゃない、しょぼいキョンの家ってだけよ!みくるちゃん!」 「え?あ、あ、そうですよね。楽しい合宿になりますね」 その横で相変わらず無表情に立っているのは長門有希である。夏のくそ暑い夕方にも関わらず、どうしてこんなに暑さを感じさせない顔をしているんだ?見つめていたら涼しくなるかな? 見つめること2秒…。視線に負けた。しかし、その間に長門の表情からはなにも読み取れなかった。つまりは突発的なイベントだが安心していいってことか。 「とにかく、こんなとこで話していてもしょうがない。ますますご近所に申し開きが立たない。あがれよ」 「おっじゃましまぁす!」 「おじゃまします」 「おじゃまいたします」 「…おじゃまする」 3-1 「うにゃぁ」 俺とともに残されたシャミセンがSOS団を我が家に向かいいれた。 「シャミー元気?」 ハルヒはつま先でシャミセンに挨拶すると、ずんずんと勝手に他人の部屋へと階段を上がって行った。 「うふふ、久しぶり、シャミセン」 朝比奈さんは、再会を喜ぶかのようにシャミに話しかけている。玄関口というロケーションだが、 朝比奈さんがシャミの喉仏をゴロゴロしている風景はこのままミケランジェロにでも彫像を発注したい。 「…勝手に上がっていいぞ」 靴を脱ぎながら、残り2名に声をかける。脱いだ靴を揃えるのは古泉、揃えないでも勝手に揃っているのが長門だ。相変わらず器用だな。 「うわっ、暑いっ!あんたねぇクーラーくらいつけておきなさいよ!」 階上から声が降ってくる。 「突然来たのになにを言っているんだ…。」 部屋へ入るとハルヒは勝手にエアコンをつけているところだった。しかし去年も思ったがこの部屋に5人は狭くないか? 「別に暴れるわけじゃないしいいじゃん。今日は合宿よ、合宿。しかもあんたの為に集中勉強オプションセットのね。」 人の部屋のベッドに仁王立ちになって一同の顔を見渡したハルヒは、次にこう言った。 「じゃ!買出しに行くわよ!」 3-2 かくして女性陣は夕飯の買出しに、オトコ連中、俺、古泉、シャミセンは留守番である。 「いったいなんなんだ…」 昼の予備校、夕方の遭遇のおかげで軽い疲労だ。居間のソファーに腰掛けながら麦茶を口に含む。 「夏の思い出…ってことでいいではないですか、失礼」 向かい側のソファーに古泉が腰掛ける。ちなみにシャミセンは俺の隣で顔を洗っている。明日は雨か? 「涼宮さんにとって、夏のイベント、がどんなに重要なものか去年のことをお忘れではないでしょう?ここは言いなり、というか、承諾しておくべきですよ。 しかも犠牲があなたのプライベートだけならね」 「おい、俺は昼もあいつと顔をつき合わせていたんだぞ。しかも、俺のプライベートを何だと思っている」 「いえ、そうではないのですよ。プライベート、というなら僕も、朝比奈さんも、長門さんも同じです。それに…、あなたもそろそろ達観の域ではないのですか?これがSOS団、我々の形だということに」 ふん、と俺は鼻をならした。反論する代わりに麦茶に口をつけたのも…、わかっているからだ。 「加えて…申し上げましょうか?今なら話せますよ」 「なんだ、言ってみろ」 「加えて、涼宮さんは…、そうですね、あなたと過ごす時間を増やしたいのかも知れません。自分で言っておきながら、妙な気分ですが。予備校にしても彼女の学力なら、わざわざあなたと同じコースを取ることはなかった」 1学期の終了間際、俺がようやく予備校の申し込みを終わったとき、ハルヒに報告(しないと後が怖いからな)したときに、ハルヒは「監督」と言って翌日に同じコースを申し込んでいたのだった。 「高校2年、否が応でも現実を見なければならないときに差し掛かっています。涼宮さんはなんども言うとおり理知的な方です。現実と希望、そして《ただの少女》としての自分…。彼女の選択と行動に特に不可思議な点はない、 特殊な能力を除けば…どこにでもいる高校2年生です。加えてこの春、お忘れですか?」 「もういい」 言葉を遮る代わりに、そして春先にあったあの「出来事」を振り返る代わりに、俺はもう一口麦茶をふくんだ。 4 その後の沈黙を破ったのは、突然の夕立だった。降り出してからほんの2・3分たったころに、雷が落ちたんじゃないか、と思うほどの勢いと音で玄関の扉が開いた。 「たっだいま!突然降り出すんだもん!みくるちゃん、有希、濡れてない?大丈夫?」 「あ、大丈夫ですよ。それより涼宮さんも長門さんも早いんだもん。お豆腐、割れてないかな?」 「…。」 買い物袋をぶら下げて帰ってきた3人娘は、雨に軽く濡れた体と服を拭くと、さっさと調理を始めた。なるほど…、ハルヒは万能、朝比奈さんも女性らしさでは髄一の存在、長門は…一人暮らしも長いしな、 それぞれ手際がいい。そういや、バレンタインも3人で作ったんだったよな。抜群のコンビネーションを見せる女性陣に対し、オトコ連中はすっかりお客さんである。我が家なのに居心地が悪い。 居心地の悪さを古泉と共有していると、小1時間ほどで、米、サラダ、麻婆豆腐、春巻きの4品が食卓に人数分並ぶこととなった。 「簡単なものばかりだけどね」 米を茶碗に盛りながら、そう話すハルヒは…一見、普通の女の子で、見ていると何故だか微笑ましくなってくる気がするのだが、あくまで気のせいであって欲しい訳で、そういえば何故、男には「手伝え」の一言もなかったのだろう? 長門が麻婆豆腐を、皿に山盛りに配膳している横で朝比奈さんが「多くないですか?それ」なんて話しかけている。見ていて微笑ましいのは多分こっちだ。確実だ。 「いただきまーす」 5人(+1匹)の食卓は楽しかった。「後片付けは、キョンと古泉君よ」というハルヒの言葉をきっかけに、ハルヒと朝比奈さんは「やっぱりこれからの時代は男も…」なんて盛り上がっている。長門はもくもくと麻婆豆腐山を切り崩し、 俺と古泉はナイター中継を見ながら…、そんな楽しい、それでいてなんてことはない食卓だ。 その後、後片付けを俺と古泉でしている間、3人娘は居間のソファーでテレビを見ながらはしゃいでいた。片づけが一通り終わると、ハルヒがテレビを消しながらこう言った。 「それじゃ、メインイベントね」 5 3人寄れば文殊の知恵、と昔の誰かが言ったらしいが、毛利元就でさえ…、まぁこうなるのは見えていただろう。かくいう、俺も少なからずそんな気がしていた。 そりゃそうだろう?経験はないか?勉強しよう、と、仲良し組で集まってみたものの勉強会にならなかった覚えが。 「ねぇ、キョン。さっきからここから進めないんだけどさ。なんで?」 「そこは、前の部屋で相手の話を聞くイベントをしていなければ詰まるぞ。お前、先に進むことしか考えていないだろう?」 「んもう!めんどくさいっ!こういうのはねっ、さくさく進まなきゃ面白くないのに!」 …。一番初めに合宿メインイベントたる学習を切り上げたのは意外なことか、そうでないのか、ハルヒである。最初は「あーだ。こーだ、馬鹿キョン!」 とスパルタ指導を繰り広げていたのだが、出来の悪い生徒に辟易としたのかゲーム機に手を伸ばした。 その後の展開は…ぐだぐだである。長門はいつものように部屋にいるシャミセンをひざの上に乗せたまま、本を取り出し、朝比奈さんは妹が我が部屋においていった少女漫画を読み始め、 いまや俺と古泉だけがテキストを開いている。ちなみにハルヒのやっているゲームはサウンドノベル、と呼ばれるタイプのやつで主人公がいくつかの登場人物と会話をしながら心理的な心情を探っていくものだ。 いかにも古泉辺りが得意そうなゲームだが、俺は選択肢を片っ端から潰してクリアした。エンディングさえ見られればそれでいいのさ。朝比奈さんの読んでいる純少女漫画は、よくある告白するとか、しないとか…俺は読んでいないのでしらん。 長門が読んでいる本は…「Jane Eyre」?なんの本かは知らないが、原文で読むのはやめてくれ。外国語は今の俺にはこの上ないプレッシャーなんだ。 そんな光景がどのくらい続いただろうか。日付が変わるか変わらないか、の時刻だったはずだ。部屋に持ってきていた麦茶がなくなっていたので、 「ちょっと階下(した)に行ってくる」 「では、僕も行きますよ、手伝いましょう」 ハルヒは黙々とゲームをやっており、朝比奈さんは漫画に熱中、長門のページをめくる指先はいつもと変わらず…、それが3人を見た「最後」の光景だった。 6 階段を下りている最中の出来事だった。寒気、ではなかった。以前とは違う。心持ち…暖かいというか優しい、と表現したほうがいいのだろうか? 不思議でいて表現しようがなくて、しかし何度か経験している…あの感覚、というより気配が首筋に伝わった。 「!?」 瞬間、階段を下りる足を止めて古泉を振り返る。 「戻りましょう!」 そんなに広い家ではない。10秒もかからなかったはずだ。俺の部屋を開けるとそこに、3人の姿はなかった。 「これは…」 どちらともつかず口に出た。やりかけのゲーム。電源もテレビもついたままだ。開きかけの漫画。その場から読み人だけ消えてしまったように落下している洋書。 側にはひざの主がいなくなったせいか、シャミセンだけがいる。 「なんなんだ…、いったい…」 隣の部屋は両親の寝室になっている。妹の部屋は向かいの部屋だ。たったこれだけの2階の部屋のいずれにも3人の姿はなかった。 「古泉…わかるか?」 待てよ、待て。冷静になれ。あの感覚…気配は…あれだ、閉鎖空間やカマドウマや音の化け物、冬山のときと同類項だ。しかしなんで長門までいない? いや、それ以前に…ハルヒ?なんであいつが?ここにいたのに?あいつまで消えている?何度かこういった事態に遭遇したせいか。思ったより冷静だ。しかし…、3人とも消えるとは…。ありえない。 あの「3人娘」が…。事態の異常さよりも…3人がいないこと、はぐれてしまったこと、守れなかった?ことに焦りが、苛立ちが湧き上がりそうになる…。 「まずは…落ち着いてください」 「いや…わかっ!わかっている…」 思わず声が高ぶりそうになる。 「この感覚は…そうですね。楽観的かもしれませんが、危害はない、と思います。僕らにとっても、彼女たちにとっても」 7 「今まで、我々が遭遇した事態…。内面的な要因も外部からの要因もありましたが、少なくとも我々に生命の危機、までが及んだ試しはありませんでした」 「雪山でのことを、お前は忘れてしまったのか?」 「失礼、言葉が足りませんでしたね」 「長々とお前の言葉を聞く時間はなさそうだが…。産業、いや三行でまとめてやるなら聞いてやる」 「では、ご説明を。我々が《隔絶》された空間、いえ、あなた、がですね、空間に置かれた事例を順に申し上げましょう。僕と行った閉鎖空間、涼宮さんに連れて行かれた閉鎖空間、 部長氏の家、バンド練習中に、雪山での古い館、そして橘に連れて行かれた別種の閉鎖空間…です。孤島でのことは…まぁ置いておきましょう。自然現象かもしれませんし。 このうち明確な外部からの要因で隔絶されてしまったのは、雪山での一件だけです。しかし、あの時は僕には予想外、でしたが長門さんには感知できていた。しかし、先ほど、あなたの部屋では長門さんは普段どおりの様子でした。 よって外部から、つまりあの別種の宇宙的存在からの介入ではないと、言い切れます」 「三行を越えているぞ。長い、相変わらず」 「ふふっ、そうですね。あなたのような方には論より証拠、ではこれを」 古泉が手のひらを上に向けると、いつぞやの赤い光の玉が浮かび上がった。お前はその●は自慢かもしれんが、俺にとってはそれを見るということは厄介ごとの最中であるという証拠なんだよ。あと、頼むから家を破壊するなよ。 「では、しまいましょう」 そういうと赤い…、めんどくさいな、●はふっと消えてしまった。 「僕がこの能力を発揮できるのは閉鎖空間と長門さんの言う位相空間だけです。そしてここには神人はいない。断言します。一方、過去2回の位相空間では、空間に引き込まれてからすぐに敵性、というのか、対象となる《物体》が出現しています。 こんなおしゃべりしている余裕はなかった。それにあの引き込まれた、というか今回は巻き込まれた、が適切ですね。あの感覚は…危害が加わるような感じではないと思います」 勘ですが、と古泉は付け加えた。勘だが、確かにそれは同意できる…。あの階段の途中での感覚、確かに古泉も同じものを感じているのだ。しかし…、勘では安心できるのだが、現実ではやはり3人がいないということに不安だけがつのる。 「とにかく、探しましょう。2階はこの様子でしたが、あるいは1階なら」 8 いつ我が家のリフォームが行われたのだろう?これが匠の技か? 「これは、これは。立派な廊下ですね」 「冗談はやめろ」 「では、屋敷、いえ《迷宮》とでも呼びましょうか?」 「この状況でよくそんなことを…」 見れば、遠近法とでもいうのか、ずーっと廊下と扉が続いている。廊下には人影がない。 「とりあえず片っ端から開けていくしかないか」 「それしかないようですね。時間はかかりそうですが、特に危険がない、と分かった今は一つずつ確実に探していきましょう」 最初に開けた居間の扉には…誰もいなかった。というか、我が家の居間と台所は続き間になっているので、どちらを開けてもそこに人が「いる」のか「いない」のかわかるのだが。 そんなに広い居間と台所ではない。あわせて16畳くらいのもんだ。 部屋の中の広さは変わっていない。食器の配置も、俺と古泉で片付けたままだ。ハルヒがテレビを消すときに使って置いたリモコンも、あいつが座っていた辺りにある。 「なにも…ないな」 「そのようで。次に行きましょう」 廊下に出て、次の扉「台所の扉」を開けようとして、古泉に、 「なぁ、これで探していって…いや、なんでもない」 「あなたのご心配は…、僕も同じです。しかし、我々SOS団は、そんなに弱くはないはずです。あなたが一番ご存知でしょう?」 失敗した。こいつに弱音や心配事を吐くんじゃなかった。限定能力者野郎のくせに。せめて、こんな時は…、長門に、だったのなら…。 「まずは信じることです。あなたのとる行動、そして想いを…」 「うるさい」 台所の扉①を、古泉の言葉をさえぎる代わりに開けた。 そこにいたのは…エプロン姿の女子、カレーの香り、ことこと、と、小気味いい音をたてる鍋、リズムよく包丁を操る…長門有希だった。 9-1 「……」 「……」 「……。」 呆然と立ち尽くす俺、古泉、長門。なんだこれは?空気を変えたのは長門の一言だった。 「お帰りなさい…、あなた。」 あなた?どなた?こなた?いや、待て待て。事態が飲み込めないぞ。そんな奔流に流されまくりの俺と古泉をよそに、長門はこう続けた。 「帰りが遅いと聞いていたが、想定した時間より早かった。うかつ。しかも彼をつれてくるとは聞いていなかった。うかつ。」 彼、と指すときに持っていた包丁で古泉を指した。長門、そういうお行儀の悪いことはやめなさい。って、突っ込むところはそれじゃない。探していたメンバーの内1人を発見したのだが、そいつが何故、 俺の家の台所で料理をし、カレーの匂いがし、あぁやっぱり長門はカレーなんだ、とかではなくて、 「おい、長門。これは…」 古泉を刺して、いや、指していた包丁がこっちに向いた。殺気!? 「…私を呼ぶときは《有希》。約束を破った。あなたには風呂掃除1週間を言い渡す。異議は認められない。」 「これは、これは」 古泉は顎に指をあてて、考え込むような…いや、お前楽しんでいるだろ?この空気を読んだのか、古泉はいち早く対応し、 「いえいえ、長門さん、あ、《旧性》でしたね。有希さん。彼に誘われたのですよ。自慢の嫁の料理でもたまには食べに来い、と」 よ、嫁? 「遠慮はいらない。ただ《自慢》のカレーの出来に納得がいかない。しばらく、座って待っているべき。」 心なしか…うれしそうだな、長門。 「では、ここで待たせていただきます」 呆然となる俺を尻目に、古泉は夕食を5人で食べたときと同じ席に座った。 「さぁ、あなたも待ちましょう。なが…、有希さん自慢のカレーを」 隣の席に座り、古泉に耳打ちする。 「なんだ、どうなっているんだ?」 9-2 「一見するに…、新婚家庭に呼ばれた夫の友達、と言うのが僕の立場な様子ですね」 にこやかに、長門の調理する後姿を眺めている古泉に対し、俺の嫁を視姦…ではなく、 「そうじゃない。なんなんだ?どういうシチュエーション、ではなく、どういう事態…あぁもう!」 「おっしゃりたいことはわかります。しかし、今は様子見です。危害もないようですし」 お前、さっき包丁向けられていたじゃないか? 「そうではありません。あの《長門さん》がですよ。こういった…状況、というのでしょうか。とにかくこうなっているのです。ここは下手に刺激しないほうが」 「改変、されているのか?いや、したのか?」 「わかりません。どちらにせよ危害だけはないようですが」 危害、ね。確かに…今は後姿だが、この《長門》からは何にも感じない。いや、実は後姿からだけでも感じるものがあるのだが…。しかし、俺は生まれてこのかた、 こういった《状況》にも《感じ》にも疎い男だぞ。SOS団でも、男女間感情なんてものはほとんど存在しない。断言できる。それもあのハルヒが率いているんだ。恋愛感情は精神病の一種、ハルヒの言葉だ。 しかし、この《長門》から感じる雰囲気はなんだ?まるで、そう、新婚とか幸せいっぱいとか…。あの12月の長門とは違う《長門》がここにいる。なぜ?ハルヒの仕業か、長門の改変か…。 そんなことを考えていると、いつぞやのように山盛りカレーが目の前に置かれた。 「…お待たせ。食べて。」 あの時のカレーより一言多く出てきたカレーは…、なぜかご飯がハート型に盛られていた。 10-1 改変?長門(有希)は、食事中の姿はいつもどおりだった。同じようにハート型に盛られたご飯と大盛りカレーを、こともなく崩していく。 よく食べれるな、さっき大盛り麻婆豆腐を食べたんじゃなかったのか? 「なんのこと?」 小首をかしげてまっすぐ見つめてくる長門(有希)は…、あの12月の長門とは違う…はっきりいってかわいい。 「いやいや、相変わらず有希さんの作るカレーは美味です」 こいつも…いたんだよな。うっかり、新婚モードになりかけたぜ。モード移行をしたほうがよかったのかよくなかったのか、 わからないが現実に戻ることが出来た。カレーを食べながら考える。どうしたらこのモードを脱出して、いつもの状態に戻れるんだ? 特殊小役でもひけばいいのか? 「どうしたの?あなた。」 長門(有希)が不思議そうに俺を見ている。その瞳は俺の知っている長門の瞳の色と同じなのだが…、雪解け水とかではなく、もっと温かみと優しさと、 そうだな、春の小川、くらいの温度か? 「おいしくなかった?」 長門の疑問形なんか、そうそう聞けるものではない。しかし、なんだ。この長門(有希)は。疑問形連発の上に、そんな目をされたら… 「いや、うまいよ。いつものお前のカレーだ」 お前、の辺りで長門(有希)は、一瞬、反応があったが、すぐに安心したように「微笑んだ」。 「そう…よかった。」 思わず固まってしまった。隣の古泉も…固まっている。が、それも一瞬ですぐに誰ともなしに笑い出す。 「あはは」 「うふふ。」 「ははは…」 10-2 食事が終わると、古泉は「ご馳走様でした」とだけ言って、居間のテレビのほうへと向かった。 何やら含んだもののある視線を俺に向けていったが、さっきハルヒが座っていた辺りに今はいる。食卓には、俺と長門(有希)、 そしてカレー山が片付いた食器だけだ。先に口を開いたのは長門(有希)だった。 「久しぶりに聞いた。」 「?なんのことだ」 「……お前。」 「?」 「……《あの頃》あなたが私を呼ぶときはいつも、長門、か、お前、だった。」 「…」あの頃って、長門(有希)? 「一緒になって、あなたは約束した。有希、と呼ぶと。うれしかった。」 饒舌な長門(有希)、違和感を覚えまくりなのだがここは聞いておくべきだろう。突破の鍵になるのかもしれん。 「有希、と呼ばれたことで、あなただけのものになれた気がした。実際あなたはわたしにとってよい夫。早く帰ってくる。気遣いもしてくれる。」 そんなにいい旦那だったのか、俺よ。 「私にとって《あの頃》からの気がかりは…。」 そこで、長門(有希)は少しだけうつむいた。 「涼宮ハルヒと朝比奈みくる。」 消え入りそうな声だった。 10-3 あなたが私に気遣って、彼女たちに連絡をわざと…しなかったのは知っている。 しかし、私もわざと、彼女たちの話題を口にしなかった。」 ……。 「さっき《お前》と言われた。《あの頃》を思い出した。あなたも…そう?」 「あ、あぁ」曖昧な返事しか出来ない。なんと言えばいいのか…。 「あなたにとって《あの頃》の日々が大事なのは知っている。私も…同じ。だから…変な気を遣わないで欲しい。」 長門の…、いや有希のか、明確な意思表示だ、これは。 「私は、あなたのそばにいる。だからといって気を遣うことはない。私があなたのそばにいるのは私の《意志》。」 お前…。 「そう、それでいい。でも、たまに、でいい。」 何を? 「有希、と呼んで。」 ……? 「私が…自分で選んだ名前だから。」 あの時の文芸部騒動の最中…長門の怪奇ストーリーが思い出される。 「あなたが呼べば…、それが私の存在理由。」 10-4 そういうと、長門(有希)は静かに目を閉じた。無表情ってわけでなく…微笑というべきか…。そうだな安堵感、ってやつなのかもしれない。 俺は頭をかいた。この長門(有希)が改変されたのか、改変したのか、はどうでもよくないが、今はいい。 今の彼女の心情吐露には引っかかる部分がある。【《あの頃》の日々が大事なのは知っている。私も…同じ。】つまりは、この長門(有希)はSOS団の俺の知る長門有希と同一線上にいる存在、いや、少なくとも「思い」は共有しているのだろう。 俺にとって、長門にとって、もちろんメンバー全員にとってSOS団の活動は何者にも代え難い、大事なものだ。 今の、今、目の前にいる長門(有希)が、どうなってしまった後の存在なのかはわからないが、少なくとも…、思いを共有している以上は、長門は長門である。 能力・素性云々とかは…気にはなるが今はどうでもいい。問題は…、今、俺が…言えるかどうかだ。 「あ、あのな…」 長門(有希)が顔を上げる。ゆっくりと、そして優しく。 「その…、なが、いや、お前にとっても…。いや、ちがうな」 「……なに?」 「俺は…、SOS団が…いや、あの《日々》が、大事だ。お前にとってもそうであるように」 長門(有希)は黙って聞いている…。古泉に聞こえているかは…しったこっちゃない。 意を決して、一気にしゃべる 10-5 「たくさんお前に助けられた…。時々思う、いや思ってた。俺は、お前に、何をしてやれたんだろうって」 「……そんな…。気にしなくていい。」 「いつも…、ハルヒに振り回されて…余裕がなかったのかな?俺も、大事なことをお前には伝えてやれなかった」 「…なに?」 「…あ、あ、ありがとう。なが、い、いや、ゆ、有希」 「……。」 ええい! 「ありがとう。いつも、有希。今までも、これからも」 「…………うん。」 「また、図書館に連れて行ってやるよ」 「……ありがとう。」 瞬間、刹那だった。強力なフラッシュが室内でたかれたような、まぶしい閃光が周囲を支配した。 「うおっ!?」 視力が回復したとき…、そこに長門(有希)の姿はなかった。 「…ながと?」 「これは…」 長門の返事の変わりに背後から聞こえたのは古泉の声だった。 「いやはや…いいものを聞かせていただきました」 語尾にハートマークでもついていそうな軽やかな口調で古泉は語りだした。 11 古泉が言うにはこうだ。 この空間はSOS団の3人の女子、ハルヒ、朝比奈さん、長門、の3人の深層意識の表出したものだろうと。 「今の長門さんの消えるまでの様子…、おそらくは現実世界へ回帰したものと思われますが、まぁ、それでわかりました」 俺には何のことかわからん。 「まだ、おわかりにならないのですか?あなたもつくづく…。」 そんなことはどうでもいい。さっさと話すことがあるなら話せ。3秒待ってやる。 「では、次の部屋へと行きましょう。そうですね…、次は、居間のほうがいいかと思います。イメージですが」 なんのことだ? 「居間の扉だけを開けてみていってください。きっと《彼女》がいますよ」 我が家で異変が起こった上に、この異常事態だ。なぜお前はそんなに楽しそうな顔をしていられる?それになぜお前のアドバイスに従わねばならん? 台所の扉①を出て、次の扉は居間の扉②だ。果たしてそこには… 「何もないじゃないか」 最初の居間①と変わらない。 「では、居間③へ」 居間③にも居間④にも誰も何もなかった。廊下はまだ延々と続き、端は見えない。 「いつまでかかるんだか…」 ため息にも似た台詞を吐き出す。すると古泉が、 「足りないのかもしれませんね」 11-2 なんのことだ? 「朝比奈さんが淹れてくれたお茶の中で一番おいしかったもの、覚えていますか?」 「突然なんだ?なんの話だ?」 「いいから。答えてください」 少しばかり強い口調の古泉は意外といえば意外だが、そんな話を今、している場合か? 「では、この扉、居間⑤を調べ終わるまでに考えておいてください」 ?よくわからん。わからん状況時にわからん質問を出すな。お茶、お茶ね…。そういえば喉が渇いた。 こんなときこそ、朝比奈印の朝比奈茶だろう。 俺はなんともなしに居間⑤の扉を開けた。 居間⑤のソファーにローゼン…いや、綺麗な人形が座っているのかと思った。そのお方はソファーに座りながら編み物をしていた。 「キョン君、古泉君」 そこに鎮座しておられたのは、美しき姫君、朝比奈さん、その人であった。しばらく凝視する。 そのお顔、胸、腰つき…。(大)でもなければ…雪山山荘のときのようなセクシー路線でもない。さっきまで…、妹が置いていった少女漫画を読んでいた、 高校3年にしては、やけに幼い、俺のよく知る朝比奈さんそのものだった。 「お茶、いれましょうか?」 12-1 「キョン君、覚えていますか?去年のあの桜の咲く川沿いの公園を」 去年、桜は2回咲いていますよ。 「うふ。そうでしたね。えーっと、最初の不思議探索のときです」 未来人告白、のときですね。 「そう。あの時…、ううん、あの前かな?あたしが言った言葉を…」 思い出してみる。えーとパラパラ漫画の話とか時空の歪みがどうとか…。 ちなみに古泉は、台所の食卓のほうに今はいる。台所①とは位置関係が逆になっているわけだ。 「思い出した?」 は?何を? 「んもう、キョン君、ちゃんと思い出して」 なんだっけな?とか、そういう場合じゃない。今、目の前に座っているのは、よく知る朝比奈さんだ。さっきの…長門(有希)とは違う。 なにも変質していない、いつもの朝比奈さんだ。特に違和感は…ない。 食卓にいる古泉が「では、僕はあちらで」と言って席を外れたのは、なんのサインか気にはなるが。 朝比奈さんは、いつものスマイル100パーセントの表情で、お茶をすすっている。 ちなみに朝比奈さんが入れてくれたお茶はなぜか、熱いセイロンティーだ。熱くてうまい。 「キョン君は聞いてくれましたよね?誰とも付き合わないの?って」 「だって、あたしは未来へいつか帰らなくちゃいけない。悲しいお別れになること…わかってるから」 「でも、あたしはもっとかけがえのないものを、この時代で…ううん、みんなで、みんなのおかげで手に入れることが出来ました」 「楽しかった…、任務だったけど…、キョン君がいて、涼宮さんがいて、長門さんがいて、古泉君がいて、楽しかった」 「時間平面の駐在員としては…、がんばったつもりだけど、自信ないかも」 12-2 ……なんだ?何が言いたいんだ?いやな展開が脳裏を全力疾走する。 まさか、このまま「お別れ」ってことじゃないだろうな? しかし、この朝比奈さん…見かけは(小)でも語り方…なんというか語尾に力があると言うか、 温和な中にも、説得力?というのか、まぁそんな感じが見受けられるのは(大)にも通じるものがあるが。 「キョン君」 「はい?」 そんなことを考えていたのがいけなかったのか、呼ばれて、振り向けば、朝比奈さんが真剣な眼差しで俺を見ている。 しかも、至近距離だ。う…か、顔が近いですよ、朝比奈さん。うれしい限りだが。 「約束を…約束をしてください」 「…はい」 「…悲しいお別れをしないって。あたしを笑って…未来へと帰してください」 「…」 「それが、あたしからのお願いです…」 朝比奈さん…。 決意と願い、ここにいる朝比奈さんは、(大)でも(小)でもなく…、いや、違うな。 (小)から(大)への朝比奈さんなんだ。 俺たちはあの最初の春、邂逅の春から少しずつ変化している、ってのは古泉の台詞だ。 そうなんだ、朝比奈さんもいつまでも、あの「朝比奈さん」ではない。 12-3 「わかりました。もちろんですよ、朝比奈さん」 「うん、ありがとうございます」 コスモスのような優しい笑顔だ。 「いつか、そう、二人でお茶を買いに行ったときです。 あの時、言ったように…いや、言えなかったんだっけ?とにかく、朝比奈さんは朝比奈さんで…、 何かできるとか、いてくれるだけで、とかじゃなく…、俺は楽しかったです。 あなたがいてくれたから、ですよ」 「そんな…あたしは何にも出来ないばかりで」 「お茶、いつもおいしかったですよ」 「え、ありがとう」 「いつもかわいい衣装で」 「ひゃ、あ、ありがとう」 「いつも優しくて」 「そんな…」 「頼りないけど」 「すいません…」 「でも、あなたでなくてはならなかった」 「え…」 「他の誰でもない、あなただったからですよ」 「……」 「あなたがいてくれて、いえ、《来てくれて》よかった」 13-1 居間⑤の扉をでて廊下を見渡す。 延々と続く廊下は相変わらずだが、状況を一つ一つ突破しているためか、最初に感じたような焦りや苛立ちはない。 「あとは…、あいつか」 一番厄介そうだが。 「これで、この《迷宮》が何を意味しているか、いくらあなたでもお気づきでしょう?」 わかっているさ、それは俺が常々SOS団の活動の日々で…いや、いまや俺の生活のほとんどなのだが…足りなかったもの、反省すべきもの、そして…言わなかったものだ。 それは、わかる。俺だって後悔はしたくない。いつか、いつかは、と思っていたさ。しかし…、わからないことが一つだけある。 そして、それは古泉に聞くことではない。 そのあと、いくつかの扉を開けて回ったが、ハルヒの姿はどこにもなかった。 「一度、2階へ戻りましょう」 古泉が言い出した。戻れるのか?「2階は《迷宮》にはなっていませんでしたし」と言うのが古泉の主張だ。疑念もあったが、こういった空間事にはこいつのほうがやはり一日の長があるのか、 言うとおりに2階へはあっさり戻れた。 俺の部屋の扉を開けると、そこには、朝比奈さんと長門がいた。朝比奈さんは少女漫画、長門は洋書を読んでいる。シャミセンをひざに乗せて。 しかし、ハルヒはいなかった。部屋に入り開口一番に俺は言った。 13-2 「ハルヒは?いや、この事態はなんだ?」 が、長門も朝比奈さんも本から顔を上げない。もう一度聞く。 「ちょっ!ハルヒはどこいったんだ?この状況は!?朝比奈さん!長門!」 おずおずと答えたのは朝比奈さんだった。 「あ、あのぅ、涼宮さんなら…トイレに行くって、多分下に…」 多分? 「何も起こっていない。」 長門? 「……。」 何故、目をそらす?長門。朝比奈さん、なんか目を合わせないようにしてませんか?顔が赤いですよ風邪ですか? えーと…。すると古泉が、 「では、涼宮さんを探してきてください。あなた一人でね」 「一人で?なにかあったら…」 「なにもありませんよ」 しれっと、答えた。 14-1 階下に降りていくと、なぜか《迷宮》であった1階部分は何事もなかったかのように元の一戸建て住宅へと戻っていた。 さっきの3人の様子といい、事態自体といい、軽く混乱したまま廊下を見渡すが、今度は扉を開けることなく、目的の人物が見つかった。 ハルヒは玄関口に立っていたのだ。 「なにしてるんだ?」 玄関口に立つ後姿に声をかけた。振り向きながらハルヒは、 「なにって、あんたたち部屋に戻ってこないから、外に出かけたのかな?って思って」 そういうハルヒの指先は俺の靴を指している。 「あたしも喉が渇いたわ。キョン、冷蔵庫開けるわよ」 そう言って勝手に台所の扉のほうへ向かい、勝手に扉を開けた。 人の家をなんだと思っている、この様は、確かにハルヒだが。様子も長門(有希)のようなわけでもないし、朝比奈さん(小)⇒(大)、のようなところもない。 しょうがないのでハルヒに続いて扉の内側へと入った。 「で、あんたちゃんと勉強してるの?」 勝手に冷蔵庫から麦茶を強奪したハルヒがグラスに注ぎながら聞いてきた。 「ま、そこそこには」 「あんた、志望校どこだっけ?」 「考えていない」 志望校か…。「死亡校」ならたくさんあるが。 「ふざけてんの?」 大きな瞳から生じた視線が脳下垂体まで貫く。 学問の話は俺が必死に避け続けてきたオフロードなんだ。今はまだレースに出たてのルーキーだぞ。そこまで考えていない。 14-2 ハルヒは食卓の椅子に腰掛けながら、ふっと、息をついた。 「ま、あたしもこれからなんだけどね。志望校。有希はどこでもいけそうだし、古泉君は理系でしょ?みくるちゃんはどうするのかな…?キョン、みくるちゃん、どこ行くか聞いてる?」 知らん、と答えながら、何故かハルヒの隣に腰掛ける。何故だろう? 朝比奈さんに志望校なんてないだろ。未来へと帰ってしまうのだからな。それか大学に入ってもハルヒの監視を続けるのか?講義後は毎日北高へ来てくれるとか。 それはうれしい限りだが、アルバイト代でも払わねば申し訳がたたない。 そんなことを考えていたら、聞き逃しそうになった。いつものハルヒにしてはほんとに、本当に小さな声でつぶやいた。 「SOS団も…折り返し点なんだよね」 わかった。今、はっきりわかった。 14-3 ハルヒはどこを見ることなく、グラスに口をつけている。 願望、想い、言葉、希望、現実、不安、意思、意志、未来、想像…。いろいろな感情や思い出が俺の頭の中を駆け抜ける。そうか…、こういうことだったのか…。 「なぁ、ハルヒ」 「ん?」 気のない返事は、いつぞやの憂鬱モードを思い出させる。しかし、古泉の出番は今回、ないはずだ。いや、作らせない。 「お前…、大学行ってからどうするんだ?」 「わかんない」 そっけない返事。だが俺は臆せずこう続けた。 「いや、俺もわからないんだ」 はぁ?とハルヒ。あんた馬鹿?みたいな視線が突き刺さる、が、構わず続けた。 「いや、行けるかどうかもわからないんだが、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくない」 「どっちよ?なにが言いたいの、あんた」 「俺は…選んじまった。この世界を。大変なことばかりさ。やれやれだぜ、毎回。でもそれは俺が選んだことなんだ」 「…何?」 「俺が選んだ意思だ。現実は…夏休みが終わったら容赦ないかもな。でも、そこで、流されるか、どうにかするかも、俺の意思、そう意志、選択なんだ」 「なんの話?あんた…大丈夫?」 ハルヒのほうに向かい…いつかの校庭のようにハルヒの両肩を掴む。 「ハルヒが俺を選んだからじゃない。俺がこの世界を、ハルヒを選んだんだ。それが俺の意思だ」 ハルヒはもう何も言わない。 「みんな…離れ離れになっちまうのかも知れない。それが現実なのかも知れん。だがな、それを選ぶのも、決めるのも、今、ここにいる、俺たちが決めていくことなんだ。SOS団の解散なんて…、考えたくもないが、希望とか未来とかじゃなくて、俺たちの《意志》なんだよ」 「キョン?」 「俺は…なにがあっても、SOS団を、みんなを、…ハルヒ、お前を選ぶ」 「…!」 「俺…がんばるから、だから…不安になるな」 そこまで言うと…口づけではなく、ハルヒのさらさらとした髪の上から頭をなでてやり、どんな魔が刺したんだか、頭をそっと、自分の肩の方へと引き寄せ…目を閉じた。 やわらかくあたたかくやさしい、安心できる光が瞼の上から感じられた。 エピローグ-1 「涼宮さんも長門さんも朝比奈さんも…不安や現実、希望や願望をそれぞれに抱えている、ただの高校生、ってことですよ」 「言われなくてもわかってる」 「そして、僕も、あなたも、です」 ここは台所だ。当初の目的どおり、俺と古泉は麦茶の補給へと、ようやくやってくることが出来た。 さっきまで、ハルヒといた台所の食卓が、夕食時となんら変わりなくそこにある。卓上のボトルにヤカンから麦茶を注ぎながら古泉は続ける。 「お三方が覚えているかどうかは…わかりません。ですが、そんなことはどうでもいいことではないのですか?」 ああ、と呟きながら俺は考える。その通りだ。古泉にしてはいい回答だ。俺が、しなくてはならないこと、が今はっきりとわかる。 SOS団について、自分について、そして、あいつについて…。 「結構です」 なぜお前はそんなに、にこやかなのだ?疑問がまだ一つ残っているのだが…こいつに聞いていいものなのか? しかし、ハルヒはともかくとして、長門や朝比奈さんがあの様子じゃ、本人に聞くのが一番なのか。 「キョ―ン!お布団って一組しかないの!?」 上から大声が降ってくる。近所迷惑だ、ボリュームを下げろ。布団出したところで今夜はどうせ寝ないのだろう? 3人が今、どうしているのか知る由もないが、いつもと変わらない、ことだけは確かだろう。それでいい、と思う。 楽しい合宿になればいいのだ、たとえ今からでも。それは規定次項なんかじゃなく…俺たちの意志で積み上げる未来なのだから。 未来とは大層だな、せめて今夜は、だな。 エピローグ-2 しかし…その前に… 「古泉」 「なんでしょう?」 やはり…聞いておかなければならないだろう。 「さっきまでの事件、空間が、あの3人の不安や希望やら願望やらの表出した複合世界、なのはわかった」 「その通りで」 ボトルに入りきらなかった麦茶をヤカンごと冷やすために、冷蔵庫を開けながら背後の古泉に聞いた。 「ならば、お前はどうなる?」 「と、申しますと?」 ヤカンが入りきらないので、冷蔵庫の中を整理しなきゃならん。いろいろな食料やらを整理しながら、なおも聞く。 「なぜ、お前の願望、が表出しなかった?なぜ、お前は俺と一緒にいることが出来たんだ?」 「それは…」 背後から古泉の声が近づく。 「僕には、あなたの言葉など必要ないからですよ。僕が本当に欲しいのはあなたの背後…。《バック》なのですから」 「!!!」しまった…。聞くべきじゃなかったのかもしれない。 ここからが本当の禁断の《迷宮》になるとは予想外だった。 布団のことで返事がないことにハルヒが降りてきてくれることを、ただ祈るしかなかった。 ―――終―――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4611.html
言うやいなやテーブルの真ん中に、俺達の目線程の高さでホログラムの正六面体(つまり正確な立方体)が現れた。 大きさは大体谷口の頭位で、『辺』が仄赤い光の『線』によって、『面』は薄いブルーで色付けされていた。 藤原はそれを一瞥もせずに、 「これは縦、横、高さによる三次元の姿だが、現在の世界は、まずこのような次元体系によっては作られていない」 「どういうこった」 「それを今から説明すると言っている」 ペン先を正六面体に向けて 「……次元というものがどのように変貌したのかを、今から九曜の作り出した立方体を用いて説明する。形というのは理論の塊だ。この正六面体の変化は、何が、どうなって、どうなったかを一瞬で表していく。しっかり見ておいて欲しい」 すると正六面体からは赤い『線』が消え、次に『面』が全部下方へと落下し、中に入っていた『光』が拡散した。そして『面』が一枚浮き上がり、立ち上がった姿で停止し、 「これが現在の世界を形成している理論の元となる概念だ」 「つまり、今は二次元だけしか存在しないってのか?」 「いや、これは二次元じゃない。単位で表すなら一になる」 「だって面じゃないのか。一次元は線だろう」 「これは面とは違うんだ」 「じゃあ何だってんだ」 「正方形だ」 ああ、なるほどね。屁理屈じゃねえか。 「屁理屈なんかじゃない。が、理屈でもない」 藤原はつぶさにテーブル上の正方形を指しながら、 「これは言わば『紙』のようなものだ。現在の世界は次元ではなく、これを基にした理論によって作られている」 「まさか、それこそが時間平面なのでしょうか? そして、この世界はそれが連なることによってつくられていると」 「当たらずとも遠からず、ってところか。これはまだ時間平面ではなく、その素体となる『平方時間体』だ。これを連続させることによって、僕たちの世界の姿が浮かび上がってくる」 テーブル上の『正方形』が一枚二枚と並んで数を増やし、何百枚にもなったところで全てがピッタリとくっつき、立方体を作り出した。 「これが現在の世界の体系だ。これは一見すると三次元に見えるが、この姿は『平方時間体』の連続によって作り出されている、いわば紙が束ねられて出来ている『本』のようなものだ。僕たちはこれを平方時間連続理論……称して〈STC理論〉と呼んでいる。そして、この理論の元となる平方時間体は次元とは異なる全く新しい概念の形だ。そのため、STC理論は言葉だけでは理解が困難なんだ」 ――なんかこの話、どっかで聞いたような気がするな……? 「そして『紙』に情報を与え、それを連続させることで現在の世界は作られている。これが時間平面理論であり、つまりこの世界はアニメーションのようなものだという話だよ。そして、アニメで主人公がトランプを引く場面があるとしよう。この場合、どんなカードを引き当てようとも、カードを引くまでの動作は変わらない。主人公がどのカードを引いたかというのが分岐点だ。この連続した情報のことをSTCデータ……この場合は、スクエアタイムチャプターデータの略称で呼んでいる」 STC理論に、STCデータ…………。 ――そうだ。四年前、二度目の時間遡行での七夕。あの時、長門が変えちまった世界について大人の朝比奈さんから説明を受けた時に出たワードだ。そのうち解る……それは、今だったのか。それに、 「なあ長門。お前は、世界がこんな姿になっちまってるってのを知ってたんじゃないか? 何で教えてくれなかったんだよ」 話しかける俺に長門はなにやら訴える眼差しで、 「……情報統合思念体には次元の変容は認識出来なかった。何故なら、時間や空間の概念が殆ど意味を成さない情報統合思念体にとって元々次元構造は不可知の領域であり、知る必要もなかったから。しかし思念体は現在の時間連続体である世界は偽であると理解し、物理法則は公理的集合論によって形成されていると判断していた。それは涼宮ハルヒの情報操作能力が矛盾した理論であったために既存の物理法則が崩壊し、公理を成さなくなったものが発生したため。しかし、無矛盾な公理的集合論の中にいる我々はその矛盾を証明する術を持たず、また思念体の性質上、数学以外の数学を用いての説明も出来なかった」 「つまり?」 「事情により知らなかった」 大変分かり易くてよろしい。だが、何で長門たちも解らなかったようなことを藤原は知っているんだ? 「TPDDの基礎理論の違いだよ」 藤原は俺と朝比奈さんを交互に見やり、 「……STC理論によって成立する時間平面理論を基にした時間平面破壊装置とは違い、時量子理論という理論によって僕たちのTPDDは駆動していたからだ。ちなみにこの二つのTPDDの基礎理論は、同じ人物から生まれている」 「つまり、ハカセ君か」 「ああ。川に投げられた亀を見た少年は、水面に広がる波紋を見てSTC理論を、そして、流れる川を泳ぐ亀の姿によって時量子理論を生みだしていたんだ。が、そんなことはどうだっていい。今から話す上での重要なポイントは、世界人仮説によって判明した現在の矛盾の正体……時空改変能力と情報創造能力、そして時空の断裂と『朝比奈みくる』の正体だ」 俺にとって亀の話は中々の衝撃的な出来事だが、 「確かに、それについて話を聞いた方が良さそうだな。時空の断裂以外が全く意味不明だ。時空改変能力と情報創造能力は別物だってのか? それに……」 俺は困惑の表情を浮かべっぱなしの朝比奈さんを見て、 「……朝比奈さんが、何だってんだ」 「まず、先程の次元体系が壊れた理由だが、あれを壊したのは誰だと思う」 相変わらず間髪入れずに話し出す藤原に、 「……涼宮さんでしょうね。そして、もしやそれが起こったのは……四年前では?」 古泉が割り入ってくる。よし、後はまかせたぞ。藤原は古泉に頷くと、 「そう。簡単に言えば、四年前に涼宮ハルヒは時空間を固定してしまったんだ。時間と空間を、断続的な平面へとね。この能力こそが時空改変能力であり、佐々木も持っていた能力だ。そして時空の『面』が『平方時間体』となって世界を作り出した。が、このままでは世界は成立しない。九曜が作っている『平方時間体』を見てくれ」 またもや正方形が現れ、 「これは僕たちの世界を構成していた『次元』ではない。しかし、STC理論で成立している現在も、以前と変わらない世界を維持している。それは、今まで世界を構成していた要素がなんらかの形で今も存在しているからなんだ。それがなんだか分かるか? 朝比奈みくる?」 「えう……その……」 怯む朝比奈さんをよそに、古泉が、 「……かつて世界を維持していた法則は、時の流れを操り世界を思うがままにし、情報や質量を生み出す一つの『力』に統合された。つまり、これこそが情報創造能力の正体なのですね? そしてその力は涼宮さんに付加され、彼女が時空を歪ませている原因となった。時空改変能力と情報創造能力が別のものであるというのは、つまりそういうこと……。なるほど、創造する力とは別の力が時空の隙間に発生する閉鎖空間を作りだしているから、情報創造能力を持たない佐々木さんにも閉鎖空間が発生していたのですか」 「そうだ。そして、時空の断裂は簡単だ。世界が次元によるものとSTC理論によるものとに分断され、過去と未来で時空が変わってしまったために、二つの間に非可逆的過程が発生してしまったんだ。一つ付け加えるなら、僕たちのTPDDが現在使用不可であるように、時間平面破壊装置は次元の中では成り立たない」 「そりゃ何でなんだ? 別に時間平面を破壊しないだけじゃないのか?」 「時間平面破壊装置が動作しないのは、単純にエネルギーの問題だ」 「えっ? エネルギーですか? TPDDにその概念はなかったと思いますけど……」 藤原はハァと溜息をつき、朝比奈さんを「うう」っと動揺させやがってこのやろう。 「僕たちのTPDDのエネルギー理論は永劫機関による無限のエネルギーが元で、時間平面破壊装置のエネルギー源は、情報創造能力によって生み出される無限のエネルギーだよ。次元にはその力が存在しないため、時間平面破壊装置は起動しないんだ」 ……待て、そりゃおかしいぞ。 「じゃあ朝比奈さんたちのTPDDは、能力が発現する以前にはどうやって動いてたんだ?」 「えと、そのぅ……わたしは実際に過去に行って任務を行っていたわけではないので……よくわかりません」 いやー藤原に言ってみたんですけどね。正直、朝比奈さんは良く分かってなさそうだったし。 それに、藤原は朝比奈さんについてさっき言い含んでいたよな? やっぱり、朝比奈さんには何かあるんだろうか。 「朝比奈みくる側の未来人は、過去になど行っちゃいないさ」 とんでもないことを言い出した。 「それより、まだ話しておくべきものがある。何故、僕たちは未来から時間平面破壊装置を使って現代まで来れたか分かるか? それは、僕たちの時間平面にも情報創造能力が存在しているからだ」 「……まさか、何百年もハルヒは生きてるのか?」 「それはない。情報創造能力は、涼宮ハルヒとは別の人物に移って存続しているということだが、それが誰なのかは不明だ。……これは相当危険な状況でもある」 何故だ、とは言わんがな。勝手に喋り出すだろうしさ。 という俺の予測どおりに、 「もし能力が勝手に消滅してしまえば、下手すると世界が崩壊する可能性がある。それにもし崩壊しなかったとして、能力発現以降と以前の世界が完全に分断されてしまうのは確かなんだ。こうなってしまっては、僕たちが過去に行けず、調整しなければならない歴史に干渉できなくなってしまう。だから、涼宮ハルヒの能力によって世界を調整した上で、能力を消す。つまり次元体系を元に戻さなければならないんだ」 「ああ、そうかい。大体今までの経緯は分かった。お前の話であと残ってるのは……」 ――ここでキョドキョドしている朝比奈さんについてだ。 「僕の未来はちゃんとした物理法則に基づいて成立している。おかしいのは、STC理論が影響していて、不明の情報想像能力が存在するという点だけだ。これは全ての未来の次元自体が変容しているからしょうがない。そしてこちらの未来の場合、次元理論に戻ったとしても不都合は生じない。が、朝比奈みくるの未来は違う。物質に依存しない世界など物理法則的に有り得ない。それは、エネルギーが無限であるから成立するんだ。つまりこれは……」 目を若干細めながら朝比奈さんを見つめ、 「――僕たちが正しい未来人の姿で、朝比奈みくるは《涼宮ハルヒが夢に見た虚像の未来人》だということだ。そうだろう? 朝比奈みくる。キミの未来はまだ理論的に色々不十分すぎる。だからは簡単な情報操作すら出来やしない。人型端末の情報操作能力は高次の理論であり、僕たちはそれに足る理論を持っているから、初歩的な情報操作なら造作もない。そして無意識概念集積体については解析が進んでいるため、それが作り出す位相空間にも干渉出来る。わかるか? キミは本来なら存在するはずのない未来人で、キミの規定事項は世界を崩壊させないようにしているだけの行動だ。キミの上層部は未来人の本質を理解しているから、例え自分たちが消える結果になろうとも僕たちに協力している……はずだったが、心の底は違ったのかも知れないな」 「そ、そんな……わたし……わたしは―――?」 蒼白しながら茫然自失とする朝比奈さん。俺だって気持ちは分かる。突然知らされるには衝撃的過ぎる内容だ。だがな…… 「……だからなんだってんだ」 「…………?」「……ふぇ?」 一驚したように俺へと視線を向ける未来人二人に対し、 「それこそ、意味のないクダラン話だ。そりゃ、ただ家族の中で一人の里親が違っているだけのようなもんだろう。確かに正直ショックではある……でもそれだけじゃねえか。俺たちがこれからやることは何にも変わらん。あんたらの未来に縛られない、自分たちの未来を作っていくことにはな。それに、俺たちは仲間なんだ。たとえ誰にどんな事情があろうが、全部受け入れてやるさ」 俺の言葉を受けた藤原はお手上げだといわんばかりのポーズを取り、 「……はっ。僕が言っているのは、その一人が家族を捨てて、自分の故郷に帰る道を選ぶかも知れないということだよ」 「…………わたしは、みんなと――」 哀しそうな目で訴えてくる朝比奈さんに見つめられながら、俺は、この朝比奈さんならきっとSOS団と共に歩む道を選ぶであろうと感じた。 少なくとも……大きい方ではなく、この朝比奈さんは。 「ふん……まあいい。とりあえず、僕が今回君たちに情報を渡したのは規定事項だ。それでなければ、わざわざここまで赴いてこんな席に着きはしない。が、佐々木。キミには言っておきたいことがある」 「なんだい?」 微笑みかけながら応答する佐々木に、藤原は予想だにしない言葉をかけた。 「……今回の騒動についてはすまないと思っている。悪かった。僕個人としては、キミには同情すら覚えるよ」 「それは何故かな? 同情されるいわれはないと思うがね」 あくまで明朗に答える佐々木に、 「……よく屈託もなくそんな言葉を吐けるな。キミは、涼宮ハルヒに彼を奪われたようなものじゃないか」 佐々木は目をつぶってふるふると否定の動作をし、 「それは違うと思う。臆病なだけだったゆえの僕の責任を、彼女になすりつけようとはてんで思わないね。それに、むしろ涼宮さんは僕を助けてくれたんだと思っているよ」 「何故だ?」と藤原は言い、俺たちもそう思いながら佐々木に注視していると、佐々木はにこやかに、 「涼宮さんには、自分の願望を叶える力があると言っていたね。そしてきっと彼女は、僕と同じ悩みを抱いていて、それを解決したいと思っていたはずだ。そのおかげで、僕はその同じ悩みを解決出来たんだと思う。こんな出来事でも体験しなければ、僕はずっと自分の悩みにすら気付かなかっただろうからね。肝心の彼女がまだ悩みの中にいるのが、むしろ心苦しく思うよ。キョン。涼宮さんを救えるのは、キミだけだ」 ……そうか。わからんが、もちろん助けるとも。 しかし、それは俺だけじゃないぜ。長門も古泉も朝比奈さんも、みんなでハルヒを守ってく。それに佐々木、まだ閉鎖空間でのお前との話も済んじゃいないしな。俺は列席した皆に提言するように、 「……もうここらで解散にしないか? 大体みんな話は終わったよな。古泉、俺と佐々木は二人で話しておきたいことがあるから、先に朝比奈さんと長門を連れて帰っててくれ」 「ええ。では参りましょうか。橘さんと周防さんもご一緒に」 スタスタと古泉に連れられて女性四人は席を去っていく。朝比奈さんは俺に深々とお辞儀をして、パタパタと駆けていった。……なんだかその集団、まるで古泉に騙された女性たちがこれからイカガワシイ場所へ連れて行かれているみたいだぞ。 とか思っていると、未だに残っている余計なヤツが、 「ふん。もうこれで僕とキミが会うことはないだろう。僕の規定事項はこれで終わった。あとは、君たちの規定事項に従うことにする。僕は、君たちが正しい未来を導くように祈りでもしておくよ」 じゃあ餞別がわりに一つ聞いておこうかと俺は、 「藤原。物質的なTPDDってのは、つまり俺たちが思い描くような分かり易いタイムマシンなんだろ? 一体そりゃあどんな形をしてるんだ? ひょっとして、アダムスキー型とか、ハマキ型だったり」 「キミの名前は……キョン太郎だったな。キミは浦島太郎でも読んでおくといい。あの御伽噺は時間遡行の話だ」 ここには三本毛お化けの親戚じみた名前のヤツはいないはずだが、もしこれが俺に言われた言葉であれば、俺は藤原と相撲を取らなきゃならん。……つまり、張り手くらわすぞコノヤロウ。 俺が藤原にビンタでもしてやろうかと考えていたとき、 「……そうだな、一つ教えといてやる。キミは鶴屋家の山である金属棒を拾ったはずだ。あれは僕たちのTPDDの中枢を成す部品でね。精神感応型独立回路制御装置という語感のもので、これは周防九曜などの人型端末を制御する際の髪飾りの材料になる物でもある。この金属棒の情報構成にはわずかな空白があるため、そこに情報を入力することで、人型端末を制御する媒体へと変化させるんだ。入力する情報は『花』の名前に圧縮され、花言葉の意味が金属棒には付加される」 ここまで言うと藤原は肩をすくめ、 「まあ、あれは自意識を持つ端末に付けた所で効果は期待できない。能力は制限されるが、自分で髪飾りを取ってしまえるからな」 背を向けて歩き出した藤原は、そう言いつつ手を振りながら店を去っていった。 ……思えば、アイツの話は俺たちの助けになるような内容が多かった気がする。 それに漠然とではあるが、長門や朝比奈さん、古泉たちが俺とのファーストコンタクトの時に語っていた、ハルヒについての見解がある意味で全員正しかった感じだ。しかし…… なんだ? 何か、妙に引っかかるものがある。藤原の話を良く理解しているわけではないのだが、それでも、俺の頭の中で組み合わさらないものがある。とても重要な―――― 「……解らんものを考えたってしょうがないな。なにかあるのなら、そのうち向こうからやってくるだろ」 そう自分に言い聞かせながら、何故か…… 俺には、眼鏡を掛けた長門の顔が思い浮かんでいた。 第四章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1387.html
キョン「よ、おはよう」 ハルヒ「おはよ!相変わらず朝から気合の入ってない顔してるわねえ」 キョン「普通の朝はこれが標準なんだよ」 朝倉「あらキョン君、おはよう。今日も元気そうね」 キョン「あ、ああ。おはよう」 ハルヒ(フン!イヤなヤツがきたわ。外ヅラはかわいい顔してるけど、 腹の中じゃなに考えてるかわかったもんじゃないわね。この前 私の体操服が盗られたことだって、きっとコイツの仕業に違いないわ) 朝倉「あれ、涼宮さんどうしたの?急に静かになっちゃって。気分でも悪いの?」 ハルヒ(ええそうよ。あんたのせいでね!) キョン「朝倉、コイツの面倒はオレが見るから大丈夫だ」 そういうと朝倉は目をうっすら細くして答えた。 朝倉「あらそう?じゃ、キョン君にお願いするわ」 そういうと朝倉は女子の輪の中へ戻っていった。 キョン「おいハルヒ、朝倉のことがあんまり好きじゃないのは見ててわかるんだが、 せめて朝のあいさつぐらいしたらどうだ?一応委員長だしな」 ハルヒ「関係ないわ。私はね、アイツみたいに狸の皮をかぶって本性を隠してるようなヤツが 大嫌いなのよ!有希が言ってたけど、中学時代のアイツは今から想像できないくらい 荒れてたらしいわよ。アイツ高校に入ってからずっと猫かぶりっぱなしよ」 キョン「その話が本当だとしてもだ。あいさつぐらいは別にかまわんじゃないか。 それにお前は本性を現しすぎなんだよ。もうちょっとおしとやかにしてみろ。 きっと朝倉くらい人気が出ると思うぞ」 ハルヒ「フン!アホくさい。それに前言ったでしょ!アイツ私の体操服を」 キョン「しっ!・・その話は言わないっていったろ。朝倉がやったっていう確証がないんだ。 それに今お前が朝倉とおおっぴらに対立したら、ますますクラスで孤立することになるんだぞ?」 キョンは大きくため息をついた。 キョン(なんだってコイツは社交性が皆無なんだ?) 2時間目は体育だった。女子は体育館でバスケットボール、 男子はグラウンドでトラック競技である。 キョン(ハルヒのヤツ、朝倉とケンカしなきゃいいんだが・・・) 谷口「ようキョン、どうした?恋煩いか?」 キョン「ドアホ、・・・なんでもねえよ」 谷口「ははあ・・・お前、もしかして涼宮のこと考えてたな」 キョン(ドキッ) 谷口「お前は考えてることがすぐ顔に出るからな・・・ 今朝の涼宮と朝倉、一触即発だったじゃねえか」 キョン「な、なんでそんなことお前に・・」 谷口「バーカ、よく見てりゃそんぐらいわかるんだよ。涼宮が朝倉をにらむ目は ハンパじゃねえからな」 キョン(・・・・・・) 谷口「でも朝倉と対立するのはよくねえな・・・アイツは1年のアイドルとして 名前が知られちゃいるが、本性はなかなか黒い性格してるってウワサだからな」 キョン「それ、本当か?」 谷口「ああ。朝倉と同じ中学出身のヤツに聞いたんだが、中3のときアイツと ケンカした女子がいたらしいんだ。理由まではわからんがな。 そしたら次の日から、おそらく朝倉の命令だろうな。その女子が徹底的に 無視され始めたんだとさ。かわいそうに、その子は一週間あまりで 登校拒否になったらしい」 キョン「・・・マジかよ」 谷口「さあな。オレが真相を確かめたわけじゃないから断言はできんが、 ともかく朝倉だけは敵に回さないほうがよさそうだぜ。涼宮には お前からよく言って聞かせとけよ」 キョン「・・・一応、忠告として受け取っておくよ」 一方そのころ、体育館では・・・ 現在、ハルヒ率いる赤チームと朝倉率いる青チームの試合が行われていた。 別に二人がキャプテンをつとめているわけではないが、飛びぬけて 運動能力の高い両者は試合全般にかけて活躍し通しであった。 瀬能「涼宮さんて運動神経抜群ねえ」 阪中「そうよね。ちょっと憧れちゃうのよね」 瀬能「それに、朝倉さんもすごいよね。さっきから5回連続でシュート決めてるわ」 阪中「あの二人、あんなにすごいのに運動部入ってないのよね」 朝倉(涼宮さん、さっきから少し目障りね・・・) 朝倉はすっと目を細めてハルヒを見た。それからチームメイトに耳打ちをはじめた。 現在、オフェンスはハルヒチームである。ハルヒは華麗なドリブルで 敵ディフェンスの輪をかいくぐり、ゴール近くまで進んでいた。 ボールを奪いにきたディフェンスの一人がハルヒにすかされて 大きくバランスを崩し、派手に転んだときであった。 転んだと同時に朝倉はハルヒに体当たりをかけた。 ハルヒは大きく飛ばされ、床に倒れた。 ハルヒ「いったぁ・・・」 見るとハルヒはわき腹を痛めたのか、手を当てたまま動かなかった。 朝倉「涼宮さんッ!大丈夫!」 朝倉は大げさに声を上げると、ハルヒにかけよった。 朝倉「ごめんなさいね。ちょっと力が入りすぎてしまったの。さ、手を貸すわ」 ハルヒは一瞬朝倉を睨んだが、すぐに目をそらした。 ハルヒ「・・・いいわ。自分で立てるから」 朝倉「あらそう、それなら安心したわ」 そう言いながら、再び朝倉は目を細めた。 朝倉のタックルは、直前にころんだ女子のせいで審判の目が行き届かなかったらしく、 不問とされたようだった。 その後試合は、ハルヒがわき腹を痛めたせいで思ったように攻撃ができず、 防戦一方となった。 結果的には、朝倉チームにかなりの得点差をつけられた末、ハルヒチームは敗れた。 朝倉「まったく、うまいことやってくれたわね」 鈴木「アンタのタックルもかなりえげつなかったわよ?涼宮のヤツ、 かなり痛そうにしてたわね。骨にヒビでも入ったんじゃない?」 朝倉「そのときはね、お見舞いにでも行ってあげたらいいのよ」 女子A「キャハハハ!涼宮かわいそー!」 2限終了後、朝倉たちは水のみ場で、えらくわかりやすい悪事の解説を行っていた。 長門「・・・・・そこ、使っていい?」 朝倉「あら?長門さんじゃない。こんなところに何の用?」 長門「次の時間は書道。水を汲みにきた」 朝倉「ふーん・・・あ、そうそう。あなたのサークルの団長さんね、さっきの体育の時間に ケガしちゃったみたいなの。私が心配してたって後で伝えといてちょうだい」 長門「・・・そう」 水を汲み終わった長門はすぐに教室に帰っていった。 朝倉「あいかわらず愛想のない子ねえ・・・」 鈴木「なに?あの陰気なヤツ」 朝倉「私の幼馴染よ。無表情な子だから何考えてるのかよくわからないの」 女子A「涼子、あんなのとつるんでたの?」 朝倉「ま、腐れ縁てヤツね。住んでる場所も同じマンションだし」 鈴木「・・・ふーん。アンタとは全然性格あわなさそうね」 キョン(次は数学か・・・ま、授業を聞くだけ無駄だな。それにしても、 体育が終わってからのハルヒはいつに増して不機嫌そうな顔してるな。 まさか朝倉とケンカしたんじゃ・・・) キョン「おいハルヒどうしたんだ?浮かない顔して、具合でも悪いのか?」 ハルヒ「なんでもないわ。ちょっとわき腹を痛めただけよ」 キョン「運動神経のいいお前がケガしたのか。めずらしいこともあるもんだ。 保健室には行ったのか?」 ハルヒ「たいしたことないわ。ほっときゃすぐに治るわよ」 その後ハルヒは、昼休みまでずっと不機嫌オーラを放ち続けていた。 昼休みになると、すぐに教室を出て行った。 谷口「おいキョン、どうやら2限の体育でひと悶着あったらしいぞ」 キョン「まさか、ハルヒと朝倉がケンカしたのか?そういやアイツ 体育が終わってからずっと不機嫌だったしな」 谷口「いや、ケンカってワケじゃないみたいだが、朝倉と涼宮が接触プレーしたらしいんだ」 キョン(それでアイツ、わき腹を痛めたって言ってたのか) 谷口「その接触プレーだがな。ただのハプニングじゃないらしいぞ」 キョン「どういうことだ?」 谷口「真相は不明だが、その接触プレーは朝倉が仕組んだってウワサが流れてるんだ」 キョン「おい、そりゃ本当か!」 谷口「だからウワサだって。しかし涼宮にとっちゃ、あまり状況はよくないみたいだな」 キョン(たしかに今のままでは、近いうちに大きな衝突が起きることは 火を見るより明らかだ。それにウワサが本当だとすれば、ハルヒに非はない。 一体どうすれば・・・) 谷口「ま、お前もそろそろ真剣に考えたほうがいいぞ。手遅れにならないうちにな」 なぜかこのクラスでは、オレはハルヒのお目付け役というポジションに付けられているようだ。 それというのも、オレたちが高校に入学して間もないころに、 オレはハルヒがでっちあげたSOS団などというオカルトサークルに 強制的に加入されられたからだ。 それ以来、オレは社交性0のハルヒとクラスとのパイプ役を勤めているってわけだ。 弁当を食い終わるとオレは文芸部部室に向かった。 ……表向きは文芸部であるが、その実体はハルヒが作ったSOS団などという わけのわからないサークルの巣窟となっている。 オレは部室のドアを開けると、中にいた少女に声をかけた。 キョン「よ、長門。いつもご苦労なこったな」 長門は奥の机でハードカバーの本を読んでいた。彼女はただ一人の文芸部員であったが、 ハルヒに目を付けられたのが運のつきであった。それ以来ハルヒがこの部室に居座るようになり、 文芸部は今や有名無実化していた。・・・まあ、長門にしてみればハルヒがいてもいなくても 読書できることに変わりはないのであろう。 キョン「ちょっと聞きたいことがあるんだ」 そういうと長門は本を閉じ、オレに視線を移した。 長門「なに?」 キョン「朝倉涼子・・・って知ってるだろ」 長門「私の幼馴染」 キョン「その朝倉について、詳しく教えてもらいたいんだ」 長門「なぜ?」 そういいながら長門はまっすぐにオレの目を見つめてくる。・・・うーん、なんだか居心地が悪いな。 キョン「その、うまく言えないんだが、ハルヒのヤツが朝倉と仲悪くてな。 どうにかして仲良くしてもらいたいと思ってるんだ」 長門「朝倉涼子と涼宮ハルヒの性格は水と油。仲良くするのは困難であるように思う」 それぐらいはオレにもわかるんだが。 キョン「うーん、そこをなんとかだな・・・そうそう、朝倉ってどんな性格してるんだ?」 長門「彼女の性格は表面に現れているものがすべてではない。常に本音を隠しながら 人と接している」 キョン「てことはだな。表面上は仲良く接しているように見えても、 実はソイツのことを嫌っているってこともあったりするのか?」 長門「今までの経験上、そういうことは多い」 やっぱりそうか・・・本性が黒いってウワサももしかしたら本当かもしれんな。 キョン「なんでそこまでわかるんだ?アイツはお前にだけは本音を話しているのか?」 長門「彼女は表面的には誰に対しても同じ接し方をする。・・・でも、私にはなんとなくわかる」 幼馴染だけに性格の深いとこまで理解してるってことか。 キョン「そうか・・・ありがとな、長門」 長門「気をつけて」 キョン「ん、なにがだ?」 長門「彼女は敵意を抱いた相手に、決して直接に敵意を見せるようなことはしない」 …なるほどな。こりゃハルヒでも手に負えないかもしれん。 結局その日はハルヒの機嫌が直ることはなかった。 次の日、ハルヒのことが心配だったオレは少し早めに学校に着いた。 朝倉「あら、キョン君おはよう」 キョン「あ、ああ。おはよう」 教室に入ると、なぜか朝倉がハルヒの机の上に腰かけていた。 キョン「なんでお前がハルヒの席にいるんだ?」 朝倉「あら、ちょっとぐらい貸してもらってもいいんじゃない?まだ涼宮さんきてないみたいだしね。 それより少しお話しない?」 キョン「それは別にかまわんが・・・」 オレは戸惑いつつも朝倉をの会話を楽しんでいた。しかし、やがてハルヒが 教室に来る時間となった。 ハルヒは自分の席に朝倉がいるのを一瞥すると、さっさと教室から出て行ってしまった。 朝倉「あれ、涼宮さんあわててどこ行ったのかな?トイレかな?」 キョン「・・・朝倉、お前に聞きたいことがある」 朝倉「なあに?」 彼女は目を細めて聞き返した。 キョン「お前、昨日の体育の時間にハルヒにケガさせたんだよな?」 朝倉「涼宮さんには悪いことしちゃったわね。・・・昨日から心配だったの」 キョン「そのことだがな・・・お前がわざとやったんじゃないかってウワサを聞いた。 まさかとは思うが念のため聞いておきたい。それは本当のことか?」 朝倉「・・・ひどいこというのね。私がクラスメートをわざとケガさせるように見えるの?」 朝倉は大げさに、心外だという身振りをしながらそういった。 心底、疑われたことが悲しいという表情をみせながら。 キョン「ウワサが気になったんでな。直接確認したかったんだ。・・・疑って悪かった」 朝倉「疑いが晴れたならそれでいいわ」 彼女はオレに満面の笑みを見せると、自分の席に戻っていった。 しばらくしてハルヒが戻ってくると、ほぼ同時に担任が教室に入ってきてHRとなった。 そして、1時間目の間中ずっとオレはハルヒの不機嫌オーラを背中で受け続けていた。 ハルヒ「あんた、委員長萌えだったの?」 キョン「なんのことだ?」 休み時間になると、さっそくハルヒはオレに喰ってかかってきた。 ハルヒ「さっき朝倉とうれしそうに話してたじゃないの」 キョン「別にうれしそうじゃねえよ」 ハルヒ「鼻の下伸ばしてたクセに何言ってんのよ。おかげで私が遅刻するとこだったのよ」 キョン「朝倉なんて気にせず教室に入ってきたらよかったんだよ」 ハルヒ「アイツの顔なんて見たくもないわ!」 キョン「お、おい、あんまりでかい声だすな。聞こえるだろ」 ハルヒ「知ったこっちゃないわよ!」 そういうとハルヒは、女子グループの輪の中心で微笑んでいる朝倉を睨んだ。 視線に気づいたのか、朝倉はハルヒのほうをチラっと見て、それからこのオレに 微笑みかけてきた。 ハルヒ「・・・ふーん、朝倉もまんざらじゃないみたいね。よかったじゃない!」 キョン「お前、なに勘違いしてるんだ?」 ハルヒ「フン!」 ハルヒは窓の外に目をやると、それ以上は口をきかなかった。 その後もダウナーなオーラを無差別に拡散するハルヒに耐えながら、なんとか午前の授業が終了した。 国木田「涼宮さん、今日も機嫌悪そうだったね。やっぱりウワサ本当だったのかな?」 キョン「さあな」 谷口「あの様子だとそろそろ全面戦争も近いぜ。・・・ところでお前、今朝朝倉と 仲良く話してなかったか?」 キョン「しらねーよ。向こうから話しかけてきただけだ」 谷口「涼宮を裏切ろうってのか?ま、お前がどっちにつこうが知ったこっちゃないが、 お前に見捨てられたら涼宮はこのクラスで孤立するってことは忘れるなよ」 キョン「人の話を聞かないヤツだな・・・そもそもハルヒが孤立してんのは、 アイツが自ら招いた事態じゃねえか」 谷口「あれでも中学のころに比べたらだいぶマシになってるんだぜ?・・・たしかに 朝倉がかわいいのは認めるが、安易な乗り換えはオレをはじめとする男子軍団が 黙っちゃいないぞ」 国木田「そうそう。キョンには涼宮さんがお似合いってことだよ」 勝手なことばかり言いやがって。涼宮にせよ朝倉にせよ、オレに選択権はないのか。 ……っと、こんなことコイツらに聞かれようもんなら公開処刑されかねんな。 教室で弁当を食い終わると、オレはまた部室へと向かった。 キョン「よ、長門・・・はいないみたいだな」 めずらしく今日は長門が来ていなかった。 やれやれ、ハルヒと朝倉のことを相談しようと思ったんだが。 オレはイスを引いて腰かけた。 しばらくすると部室をノックする音が聞こえた。 キョン「どうぞ、空いてますよ」 朝倉「ちょっとお邪魔するわね」 なんと、入ってきたのは朝倉だった。 キョン「こんなところまで何の用だ?・・・教室じゃ言えないようなことか?」 朝倉「あら、つれないこというのね。わざわざあなたに会いにきた女の子に対して」 朝倉は笑顔を崩さずに話を続けた。 朝倉「アナタ、長門さんに私のことを聞いたみたいね」 キョン「・・・長門がそう言ってたのか?」 朝倉「あの子はそんなおしゃべりじゃないわ。ただ昨日からのあなたを見てて そう思っただけ。影でこそこそされるのはあまり好きじゃないの」 えらくストレートにきたな。一瞬あっけにとられてしまった。 キョン「それは悪かった。じゃ、オレもストレートに言わせてもらうよ。 ・・・あまりハルヒを刺激しないでほしい」 朝倉「それこそ心外ね。私は涼宮さんと仲良くしたいと思ってるわ。 あの子、クラスで孤立気味だから・・・あなただけには心を開いてるようだけど?」 不意にそう言われて顔が赤くなってしまった。・・・コイツはなかなかの強敵だな。 オレの表情を見た朝倉は、満面の笑みで話を続けた。 今度はオレが朝倉を見つめる番だった。 朝倉「なあにキョン君?・・・そうね、もしかしたら私も彼女の気に障ることを してたのかもしれないわ。今後は気をつけるってことで、ここは納得してくれない?」 キョン「・・・わかった。くれぐれも頼む」 朝倉「あなたにここまで心配してもらえるなんて、なんだか涼宮さんがうらやましいわ。 じゃ、そろそろ私はこの辺で。あなたたちもほどほどに教室に戻るのよ?」 そういうと朝倉は教室へ帰っていった。 彼女が帰ったあと、オレは再びイスに座りなおして大きくため息をついた。 キョン「なあ長門、今の朝倉の言葉、どう思う?」 長門「なんで私に聞くの?」 キョン「いや、お前ならアイツが本心から言ったかどうかわかるかな、と思ってさ」 長門「あなたはわからないの?」 たしかに、アイツと付き合いの浅いオレでも今のセリフは本心から言ってないってことは なんとなくわかる。 しかし、今日の長門は妙に冷たい気がするな・・・ 長門「私はどちらの肩も持たない。だからあなたの味方はできない」 長門の言葉を聞いてオレは驚いた。長門がはっきりとした意思表示をするなんて、 かなりめずらしいことだからである。 ・・・まあ、考えてみればかたや幼馴染、かたやSOS団団長の揉め事だ。 どちらか片側につきたくない気持ちは察せられる。 キョン「すまなかったな長門。ま、相談ぐらいには乗ってくれよ」 そういうと長門は黙ってうなずいた。 2話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3854.html
「ねぇ、キョン。事実婚って知ってる?」「………なんだそりゃ」「籍を入れずに結婚生活を送るってやつですか?」「そう、それ!」「ヨーロッパの方では広く普及していると聞いております」今日のハルヒは俺が部室に来たときには既にパソコンでなにやら調べていた「流石、副団長。物知りね……ねぇこれなんだか楽しそうじゃない?」ハルヒの笑顔が輝いている………いやな予感がするぜ「これやってみない?」「やってみない?って言われたって誰と誰がやるんだよ」「そんなのあたしがやらなかったら、あたしが楽しくないじゃない!」「………となりますと、相手は必然的にあなたということになりますね」「俺かよ!」「………なによ………嫌なの?」っう………目を潤ませての上目使いは反則だ!「い、嫌じゃないが………親にも聞いてみないとな。それに何処でやるかも」「それならご安心を。僕の知り合いにちょうどマンションの一室を(ry」「じゃぁ決まりね。あとはキョンの親の許可が下りるのを待つだけね!」…………やれやれ その夜「なぁ親父」「ん、なんだ?」「お願いがあるんだが」「OK!OK!許可する」「いや、まだ何も言ってないだろ………実は部活で長期合宿に行くんだが」「よし、言ってこい!かあさんには俺から話しとくよ」放任主義にも程があるだろ…………「『親の許可は下りたぞ』っと………送信」………………「『わかったわ。明日古泉くんの紹介で部屋を見に行くからそのつもりで。明後日の土曜日からは引越しよ』」 「『了解』っと」 「広くもなく狭くもない、ちょうどいい部屋ね。流石、古泉くん。やるわね」「お褒め頂くとはありがたき幸せ」あ、あれ?違和感感じているのは俺だけか?なんかさっき起きたと思ったら学校の記憶がないまま午後の住居見学になってたおーい、古泉。ちょっと話がある「えぇわかってます。恐らく涼宮さんが『早く部屋が見たい!』とでも願ったのでしょう。特に問題はありません」 そんなに楽しみだったとは………可愛いところもあるんだな「わ~お風呂が広い!」相変わらずはしゃぎっぱなしのハルヒ、いい笑顔だ古泉(の機関)に紹介された部屋というのはなかなか綺麗で2人で住むには丁度いい大きさだったやたらにサービスがいいことに家具家電の一式が最初から備え付けられていた「ふふ、結婚&引っ越し祝いだと思ってください」まだ結婚しとらんわ「『まだ』っと申しますと…………結婚式には呼んで下さいね、では」あぁ墓穴掘った…………ハルヒは顔真っ赤だし 「キョン、買物行くわよ!冷蔵庫があっても食材がないわ」冷蔵庫とか家電一式プレゼントは嬉しかったが食材が入ってないとは………古泉、抜かったな「う~寒いわ。流石にもうすぐ12月、手が凍っちゃいそう。ちょっとキョン!ぼーっとしてないで何とかしなさいよ」 「何とかって言われたって…………カイロでも買うのか?」「バカ!違うわよ。手よ、手!」いつもみたいに手首を掴むのではないく手と手を繋ぐ正直あったかい、って言うか幸せだ「事実婚者同士ならこれくらい当たり前よ」 「ねぇ何が食べたい?」「ん~ハルヒは何作ってもうまいからなぁ」「あ、ありがとう………」というわけで近所のスーパーに来ているのだが、「近所」っていうのをサッパリ忘れていた「おい!」突然後ろから肩を叩かれ、声を掛けられる。振り向くと「……親父!」「何してんだ、お前。あれ?合宿じゃなかったのか?」ピンチをチャンスに変えるんだ、俺!「えっとだな、これは」「キョン、何してるの………って誰?」「これはこれは、申し送れました。わたくし、こいつの父親をやっているものでございます」「これはこれは、ご丁寧に。わたくし、キョンの妻をやっているものでございます」「そーい!」 「とりあえず正直に言ってみろ」「実はカクカクシカジカハルハルキョンキョンなんだ」「なんだ、初めからそう言えよ。ほれ、餞別だ。結婚生活にはいろいろと出費がかさむぞ」と言い福沢氏が2名に樋口氏を1名、握らせた。なんていい父親なんだ実は必要経費として機関からいくらか貰ったんだが・・・・まぁありがたく頂くとするか「ところで何してるんだ?」「かあさんに頼まれてのお使いだ。まぁお前は俺の息子だ、どうせ尻に敷かれる」「ほっとけ」「そうだ!ちょっと2人とも待ってなさい」親父は薬局の方へ走っていったかと思うとすぐに帰ってきた「…………ハルヒちゃん、ちょっとおいで」「何?」なに2人でコソコソしてるんだ? 「とりあえず使わなくても取っておきなさい」「ちょ!いいいいいいらないわよ!!」「まぁそう言わずに。ラブラブなのは大いに結構だが息子を高校中退させるわけにはいかんからな」 「だからそんなつもりないっt………………勝手にポケットに入れるな!」 「わははは、ではご両人、お幸せに!さらば」「なんだったんだ?」「ししししししし知らないわよ!帰るわよ!!」いや、まだ何にも買ってないだろ 「そうね、ベタにカレーなんてどう?」「おぉ、いいね。俺カレー好きなんだ」「ってことは、にんじん、たまねぎ、じゃがいも、牛肉…………」店内の商品を物色するハルヒの後に続きカートを押す俺なんか、こう見ているとハルヒっていい奥さんになれそうだな「………なに見てるのよ」「お前もいい嫁に………いやなんでもないよ」「?………………変なの」「そういえば、住む気マンマンだったけど、まだ服とか持っていってなかったわね」「あぁ、そういえばそうだな」「じゃぁ1度、家に帰って部屋に再集合ね」「わかった」………………って買ったものの荷物もちは俺かよ! 「ひーひー」「案外遅かったのね」「そりゃぁ買物したものも一緒に持ってきたからな」「そう、ご苦労さん。あたしはカレー作ってるからキョンはゆっくりしてなさい」「なんか悪いな」「妻として当然よ!」ハルヒばかりにやらせるのも悪いから風呂でも掃除しとくか「これでよし!あとは煮込むだけね」おぉいい匂いだ~「あんたベタベタになってなにやってるのよ」「風呂掃除だ」「それって一緒に入りたいから?」「ん~そうかも知れんな」「別にあんたがいいなら………………」冗談だよ「ですよねー」 「お皿出して、キョン」「はいよ」「スプーン出して、キョン」「はいよ」「ご飯盛って、キョン」「はいよ」「テーブルまで運んで、キョン」「はいよ」「尻に敷かれる尻に敷かれる尻に敷かれる………」「GYAAAAAAAAAAA!!」「どうしたの?」「っは!ドリームか………」「?………………まぁいいわ、食べましょ」「「いただきまーす」」「「パク、モグモグ」」「おぉ、このトロっとした口当たり」「ビリッとくるスパイシーさ」「その中に辛さに負けない甘み」「口の中でトロケる具」「「これぞ究極のカレーじゃ!!」」「さて、バカやってるうちに食べ終わったわね」「急に冷静になったな」「それにしても、あんた食べすぎじゃない?5人前作ったはずなのに」「それだけ美味かったってことさ」「………………ありがとう」「どういたしまして」「じじじじじじじじゃぁ、キキキキキキョンは先にお風呂に入りなさい!」「何故そこでどもる」「お湯が冷めちゃうじゃない!さっさと入れ!」「うわっ、わかったわかった…………なんなんだ?」「ワクワクドキドキ」 カポーン「風呂デカ!!」これだけ大きければ2人一緒に入れるなザバー「ふぅ………………我ながらいい湯だ」「………………失礼しまーす」「どうぞどうぞ、ってうぉい!」「タオルだって巻いてるんだし気にしない気にしない」「(重点的に俺のジョンが)気にするわ!」「いいじゃない、夫婦なんだから」そういえばそうでした「………………」「ねぇ、そっち向いていい?」「(俺のジョン的に)ダメ!」「………………ケチ」「………………」「………………」「そろそろ出ない?」「お先にどうぞ」「む、なんかキョンに負けるの嫌ね………………こうなったらトコトン勝負よ!」「………………」「………………」「………………」「そ、そろそろギブアップなんじゃない?」「いいや、全然」「うー………………ブクブク」「…………?ちょ!ハルヒ、大丈夫か!」カポーン 「………………ん」「お!気が付いたか」「あれ?あたし…………」「風呂でのぼせたんだ」「そうだったの・・・・ありがとう」「礼にはおよばんよ」ダッテ、オキガエスルトキ、ハルヒノハダカミチャッタンダモン! 「とまぁ、お前が寝ている間に夜も遅くなった」「じゃぁ、もう寝ましょ」「それじゃぁお休み」「ってどこ行くのよ」「どこって、そっちのソファーに」「夫婦なんだから一緒に寝るの!」「引っ張るな引っ張るな、押し倒すな!」 「………………」「………………」「………………」「………………」「…………すー…………すー」「寝れNEEEEEEEEEEEE!!」「………………」「…………すー…………すー…………んー」寝返り打った、こっち向いた、顔が近い!「…………んー…………キョン……」夢に俺が出てるのか?「………………好き………」抱きつかれた!!「…………んー…………すー…………すー…………」ドキドキ 「ドキドキドキドキ………………」「…………すー…………すー」「ドキドキ………………」「…………すー…………すー」「………………」「…………すー…………すー」「…………ぐー…………ぐー」 「まったく、間抜けな顔して寝ちゃって」「…………ぐー…………ぐー」 「せっかく寝ぼけたフリして抱きついてあげたのに」 「…………ぐー…………ぐー」「やっぱりコレは使わなかったわね」「……ぐー……ぐー…………んーハルヒ可愛いぞ………」「……………バカ」 チュンチュン「キョン、起きろー」「………んー………………ん?」「今日は土曜日、探索の日よ」「そういえばそうだな」「さっさと準備しないと38週連続奢りよ」「勘弁してくれ」「だったら早く準備する!」 「あ、あれ?僕が最後ですか」営業スマイルが一瞬引きつった。俺が最後じゃないのがそんなに変か「今日は古泉くんの奢りね。とりあえず喫茶店に行きましょ」「おいおい、引っ張るなよ」「手を繋いでアツアツですね」「近寄りがたいですー」「…………」 「ほら、腕組むんだから腕出しなさい」「へいへい」 「「「ごちそうさま」」」 と言うわけで恒例のくじ引き「さぁ、引いた引いた!」「では」「えーっと………これ」「…………」「あたしはこっち」「余りかよ!」「で、組み合わせは?あたしは無印よ」「……印」「無印ですね」「無印ですー」「印だ」「……………浮気したら殺すわよ」「しねーよ」 「さて、どこに行く?」「…………図書館」「定番だな……そういえば近くに古本屋があるんd」「いく」「じゃぁ行くか」「いく」「………………」「………………」「………なんだ?」「腕は組まない?」「俺が死ぬがいいか?」「………ダメ」「じゃぁガマンしなさい」「………そう」「ついた、ココだ」「………」どこか嬉しそうだ。連れてきてよかった「自由に見ていい?」「欲しいのがあるなら買ってやるぞ」「そう」と言い残し店内に消えていく長門と思ったら帰ってくる長門「言い忘れた」「なんだ?」「午後の組み合わせをあなた、涼宮ハルヒ、わたしの組にする。許可を」「何かあるのか?」「ある」「ならいいんじゃないか?」「そう」と言い残し店内に(ry 『お腹減ったし集合』とハルヒからちょっと早めの集合がかかった勿論集合場所は喫茶店だし、おごりは俺じゃなく古泉だまぁおごれと言われても、おごることは出来ん。何故なら「…………ありがとう」小柄な少女に似合わない重量級の荷物。どうやって持って帰るんだ「くぁwせdrftgyふじこlp;」「消えた!何したんだ?」「部屋に転送した」「こんな町の中で……誰かに見られたら」「情報操作は得意」「さいですか」「………時間」「うわ!やばいな、急ぐか」「………」 「遅い!罰金!!」「ちょ、今日は古泉だろう」「あ、やっぱり忘れませんでしたか」「当然だ」「さ、お腹すいちゃったし入りましょ」「はーい」「行きますか」「………」「俺はおごらないからな、おごらないからな!」「あたしは大皿サンドイッチとチーズカツカレーとアイスティー」「こっちのページのこっからここまでと、こっちのページのこっからここまで」「えーっとぉ、ハンバーグセットの飲み物はコーヒーで」「俺はグラタンとミートスパゲッティとコーラな」「皆さん容赦ありませんね……僕は和風ランチセットで」「あ!デザート忘れた」「迂闊」「………勘弁してください」 「さ、午後のくじ引きするわよ。今度はキョンが一番ね」「おぅ!どれにするかな……」って、出来レースだったわ「これにすっか」「………」「えーっとぉ、これ」「僕は余りで結構です」「じゃぁ、あたしはこっち!」全員引き終わったが俺は組み合わせはわかってるし「俺は、無印か」「印です」「印ですぅ」「あたしは無印ね」「無印」「この組み合わせね。早速いきましょ。あ、古泉くん。伝票忘れてるわよ」「やっぱり忘れませんね」「潔く払っとけ」「たまには、ですね」 「9720円です」「彼はよく財布が持ちますね……やれやれ」 「それでは夕方頃に落ち合いましょう」「そうね。じゃぁ出発!」 「さて、キョンどこ行く?」「んー……長門はなんかあるか?」「ある」「有希が行きたい所あるなんて珍しいわね。どこ?」「………こっち」「長門、指差しながらこっちじゃわからんぞ」「こっち」「おいおい、引っ張るな」「あぁ!何、手繋いでるのよ」「だからって腕を組むな」「………わたしも」「お前もか!」「いいじゃない、両手に花で」「……………」やれやれ 「ついた」「・・・・ここ、お前の家だぞ」「ここにつれてきたかったの?」「そう」「で、何か話でもあるの?」「待ってて」と言うと、俺が冬眠していた奥の部屋に入っていって誰かを連れてきた「……長門が2人?!」「ちょっと有希。誰よ、その子!」「………孫?」「「孫?!」」 「有希、どっから拾ってきたの?」「拾ってきてない」「長門、美味しくないと思うぞ」「食べない」長門が抱っこしてる子は長門本人にそっくりだただ違うのは「……だぁ」どう見ても赤ん坊です。本当にありがとうございました「で、誰なんだ?」「説明すると長い」「知りたいわ」「………父方の叔父の娘の婿の姉の友人の兄の妹の朝倉は俺の嫁の他人の伯父の子」「つまり、遠い親戚ってことか?」「そういうこと」「なんでまた預かったの?」「この子の両親が法事」「いつまで?」「明日、日曜日の夜まで」「……で、この子がどうかしたのか?」「預かってほしい」「「へ?」」「今日の夜から両親に会いに外国に行く」「急だな」「急ね」「急」「いつ帰ってくるの?」「明日、日曜日の夜」「そぉ、じゃあ預かるわ」「長門、いいのか?こんな育児のいの字も知らないやつに預けて」「いい。むしろ適切」「まぁお前がいいって言うなら」 「たかいたかーい」「おんぎゃぁぁぁぁぁ」 「いや、前言撤回。やめとけ」「………」 「ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」 「………まぁなんとかなるか」「なる」ハルヒが赤ちゃんに夢中になってる隙に聞いとくか「で、真相は?」「あれはわたしのバックアップ」「まぁなんとなくはわかってた。で用事とは?」「この個体の大幅なバージョンアップが必要。その間、機能が一時的に停止するため代わりが必要」 「それがあの子か……名前は?」「………まだない」「ねー有希。この子の名前は?」またタイミングの悪いときに「………」困ると俺を見つめるなよ「えぇっと…ゆ……有美?………そう、有美だよな」「……そう、有美」「へぇー有美かぁ、可愛いわね。そーれ、ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」「……それと」「まだ何かあるのか?」「涼宮ハルヒが望んだことでもある」「どういうことだ?」「涼宮ハルヒはあなたとの子供を欲しいと思った。でも行為無しに子供が生まれれば涼宮ハルヒが自身の能力に気が付く可能性もある」 「こ、行為って…」「それに、あなたにも迷惑がかかる」「迷惑?」「何度シミュレーションしても高校生で子供が出来ると将来生活に困ることになる」「そっか。ありがとな」「……いい」 「気に入った!この子もらってくわね」「どうぞ」「いかんいかん、ちゃんと返しなさい」「わかってるわよ。日曜の夜までね!じゃぁ預かっていくわ」「よろしく」「じゃぁね、有希」「おじゃましました」「だぁ」「………」 「……なんか忘れてないか?」「有美ちゃん可愛いー」「………まいっか」 「あれぇ?涼宮さんたち遅いですねぇ」「来ませんね……忘れらてませんか?」 「さー有美ちゃん、ここが新しいお家ですよー」2人で住むのに充分な広さの家なんだ。1人、しかも赤ちゃんが増えたくらいじゃ変わらん「ひーひー」何をひーひー言ってるかって?荷物持ちだよ赤ちゃんに必要なものとして粉ミルクとかオムツとか着替えとかを長門に大量に持たされたからな 「でもほ乳瓶は2、3本あれば充分だ。20本もいらんだろ」「大は小を兼ねるのよ。ほーら、ひくいひくーい」「きゃっきゃっ」「あと、1日預かるのに粉ミルク20キロって」「だからー大は小を(ry」「……おんぎゃーおぎゃー」「あれ?泣き出したわ……どうして?」「どうしてって……オムツ交換か?」「……オムツしめってないわよ」「それじゃお腹がすいたんだろ」「ならミルク作ってくるわ」「お前、粉ミルクのやりかたわかるのか?」「それなら大丈夫!有希にこの本を借りたわ」「それは伝説の育児雑誌…… た ま ぴ よ !」長門の読書傾向もよくわからんな 「えぇっと……人肌に冷ますのね」 「んぐんぐ……げぷ」「はい、ごちそうさまー。よく飲んだわね」「いや、7本分とか飲みすぎだろ」「有希の家系って大食いなのかしら」「粉ミルク20キロも肯けるな」 「……おぎゃー」「オムツかしら?……しめってないわ」「もうお腹空いたとか言わないよな」「なぁハルヒ……俺たちもお腹空かないか?」「そういえば、もうこんな時間ね。買物行きましょ」「有美ちゃん連れて行くよな?ベビーカーベビーカーっと」「外は寒いわよね……上着上着っと」「……だぁ」「準備よし!キョン、行こ」「戸締り戸締りっと、よし行くか」「あぅー」「今日は何にするんだ?」「んーそうね……何か食べたいものとかある?」「そうだな……肉じゃがなんてどうだ?」「じゃがぁ」「じゃぁ肉じゃがで決定!」「ってい!」「…なんか有美ってよく喋るわね」「1歳にもなってれば、これぐらいじゃないか?」 「さて、肉じゃがなら、ジャガイモににんじん、しらたき…」「おい!」後ろから声掛けられたけど……デジャブが 「…やっぱり親父か」「あら、おじ様。こんばんは」「やぁハルヒちゃん。また会ったね」「今日もお使いか?」「いや、この時間帯にブラブラしてれば会えるかなと思って」「ストーカーだな」「ストーカーね」「はっはっは!間違いないね…ところでハルヒちゃん」「なに?」「おしさんの忠告は聞いてもらえなかったみたいだね」「忠告?なんかされてたのか?」「心当たりはないわ」「だってその子、お前たちの子だろ?」「あんたの親父って相当バカね」「面目ない」「じゃぁ誰の子なんだ?」「友達の親戚の子を預かってるだけだ」「そうだったのか。てっきりおじさんのプレゼント使わずに」「わーわーわー!!」「……なに騒いでるんだ、お前は」「なななななななんでもないわよ!こんなバカ親父ほっといてい行きましょ」「人の親をバカ呼ばわりするとは流石ハルヒだな」「じゃぁな、元気でやれよー、元気すぎて寝不足になるなよー」 「何か言ってるぞ……」「ほっときなさい!」 「うー寒かった」「12月の頭でこんなに寒かったら冬休みには凍死しちゃうわね」「凍死は言い過ぎだ。でもたまらんな」「やっぱり冬合宿はハワイとかグアム?」「ちょっと待った。そんな軍資金ないぞ」「大丈夫よ!古泉くんに言えば「ちょうど親戚にハワイに別荘を(ry」なんでことになるわ」しっかり古泉の使い方をわきまえていやがる「遠出もいいが鍋パーティーの方が俺は好きだな」「確かにあったまるもんねぇ……」「「「ぐぅー」」」「鍋の話したら余計と腹減ったな…」「そうね、急いで支度するわ」「じゃぁ俺は有美ちゃんの相手と風呂掃除でもしてるか」「…………だぁ」 「「ごちそうさま」」「さて、あたしは片付けしてるからキョンは有美ちゃんとお風呂はいちゃって」結構ハルヒってテキパキしてて働き者なんだな。専業主婦にむいてるな「じゃぁお先に………って、どうせまた入ってくるんだろ?」「あ、バレました?」「ダメって言っても……入ってくるんだろうな」「………えへへ」……やれやれ カポーン 「「いいお湯だったー」」「ちょっと早いけど、もう寝ましょ」「そうだな。今日はいろいろあって疲れた………」「……………くー……くー」「あら、有美ちゃんも疲れて寝ちゃってる……可愛い寝顔」「……………ぐー……ぐー」「こっちも寝ちゃって……間抜けな寝顔………この隙に隠して買ったプリンでも」「そうはいかんざき!」「…………起きてたの。しょうがないわね、半分こよ」「だぁ」「いや、三分こだ」「有美ちゃんまで……」 「今度こそ寝るわよ!」「寝るのに意気込む奴があるか」「……………くー……くー」「ねぇ、有美ちゃんも一緒に寝ない?」「押しつぶさないか?」「そんな心配いらないわよ!寝相いいもん…あたしね、川の字になって寝るのに憧れてるの」「ほぅ……ハルヒにしては可愛い意見だな」「あ!今、馬鹿にしたでしょ」「しとらん。褒めたんだ」「そうね、馬鹿にしたって言うよりからかったって言った方が正しいかしら」「もっと素直に受け取っ」「……………くー……んー…うるさい……」 「「しゃべった!?」」 チュンチュン「………キョン、キョン!」「…………んー…………朝か……どうした、ハルヒ。慌てて」「なんかね、有美ちゃんの様子が変なのよ」「変?」ベットで寝ている有美ちゃんの顔は真っ赤だったおでこに手を当てると「……………こりゃあ、熱があるな。風邪ひいたか?」「ね、熱!?どうしよーどうしよー」「おいおい、こんな時に母親代わりがうろたえてどうする」「…そ、そうよね。まずは暖かくしなきゃ。毛布毛布」長門のバックアップが熱か……何か起きてなければいいが「大丈夫」「うぉい、しゃべれたんですか?」「なお、これは事前にプログラムされた音声のため、期待する返答は得られない」なるほど。この熱も長門が仕込んだことか「涼宮ハルヒが「子育てするのは大変。まだ早い」と思えば作戦成功。説明終り。頑張って」説明終りって…………「……だぁ」あ、元に戻った 「とりあえず暖かくしてやれ」「毛布をかけたわ。薬は?」「まだ赤ちゃんだから、下手に飲ませない方がいいぞ」「病院行く?」「ん~高熱ってわけでもないから、しばらくは様子見だな」「それじゃぁそれじゃぁ」「ハルヒ、少しは落ち着けって」「……う、うん」 「熱も下がって、だいぶ楽そうね」ハルヒの(慌てふためく)看病もあって夜には熱も下がったと言っても確かに看病したのはハルヒだが、いろいろ教えてやったのは俺だ妹のとき、母親がやっていたのを思い出しただけの知識だったけどな「やっぱり、あたしに子育てなんてまだまだ早かったのね」はい、作戦通り。この機会に長門を参謀長に任命してやるべきだね「そういえば、もうすぐ長門が迎えに来るな」「そういえばそうね……お別れか、淋しいわね」ピンポーン「噂をすれば、ね。はーい」「おじゃまします」「さ、あがってあがって」「おう、長門。どうだった」「…………おみやげ」「「何コレ?」」「………トーテムポール」「有希の両親ってアボリジニだったのね。知らなかったわ」そんなわけあるか 「お世話になりました」「有美ちゃん、またね」「………ばぁ」「…………また、明日学校で」「有希も、じゃあね」「じゃあな、長門」「…………………」 「行っちゃった。1日なんてあっという間だったわね」「そうだな…もうちょっと一緒にいたかったな」なんかめまいがする……あぁ看病に必死で1日中何も食べてなかったからな「ねぇキョン…………キョン?」あ、あれ?世界が回るー「ちょっとキョン、どうしたの!………わ!すごい熱じゃない」グルグルだー魔方陣グルグルだー「もしもし、おじ様?ちょっとキョンが大変なのよ。うん、うん。そう、迎えに来て」マッワーレマッワーレ 昨日は親父が迎えに来て家までつれて帰ってくれたらしい俺が熱でダウンしたためプチ結婚生活はハルヒ曰く、終わったらしい………もう少しだけ続けたかったがな一夜明けて、今日は月曜日起きてみれば昨日は何事もなかったかのように熱は引いていた一応ハルヒにも学校に行く旨をメールしたところ「心配したのよ!」などと嬉しい電話がかかってきたのは内緒だ さて一日の半分が過ぎ放課後今日もいつものように部室に足を運べば朝比奈さんがお茶をいれ、長門が本を読み、古泉がボードゲームの相手が来るのを待っていた いつもと違っていたのはハルヒがパソコンをいじっていなかった何読んでるんだか………雑誌……………………ゼクシー?「ねぇ、キョン。結婚って知ってる?」「それぐらいなら俺だって知ってるぞ」「そりゃそうよねー」ハルヒの笑顔が眩しい……また嫌な予感が「してみない?」「してみない?って言われたって誰と誰がするんだよ」「そんなのあたしがしなかったら、あたしが楽しくないじゃない!」「………となりますと、相手は必然的にあなたということになりますね」「俺かよ!」「………なによ………嫌なの?」っう………目を潤ませての上目使いは反則だ!「い、嫌じゃないが………だってそれって普通、付き合ってる男女がするもんだろ?」 「「えぇ!付き合ってないんですか!?」」「……………へたれ」 「いや誰も付き合ってるなんて宣言してないだろ。それにへたれって………」「わかったわ!!」「何がだ」「付き合えばいいのよ!」「誰と誰が」「あたしとキョンよ!」「はぁ?唐突過ぎるぞ」「そうと決まったらデートよデート!さ、行くわよ」「引っ張るな引っ張るな!首が首が…………………………」 「行っちゃいましたね」「それにしても付き合っていなかったとは、同棲生活はなんだったんでしょう」「………………ヨソウガイデス」 おわり